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第23話

「せんせ……離して、ください……」 「だーめ。心が逃げないように、寝るまではこのまま」 (な、なんか、恥ずかしい……) 背中に感じる先生の身体は、俺よりも断然大きくて頼もしい。大人の男の人って感じがする。 「あの……」 「ん?」 「いや、だから……手を……」 いくら身動きしても開放してもらえなくて、もう諦めるしかないのだと悟った頃、先生が耳元で「心」と名前を呼んだ。 「な、何ですか?」 「バイト、掛け持ち辞められないのか?」 「え……」 「全部辞めろとは言わないけどさ、これからは俺が一緒にいるし、どれか一つにしてくれた方が嬉しい。心の身体の為にも」 腰にあったはずの手はいつの間にか頭に置かれていて、優しく撫でられる。 (これからは……先生が、一緒にいる) 確かにバイトをしてた理由は一人で家に居たくなかったからだ。先生と暮らすことになった今、家事だってきちんとしたいし、辞めどきなのかもしれない。 「……分かり、ました。昨日のカフェ以外は、明日話してきます」 御坂さんのお店は特に好きだから、そこだけは続けたい。そう言えば、先生が納得したように頷いたのが背中越しの微かな振動で分かった。 「ん。もし困ったら、何でも言ってな」 「……はい」 先生は本当に優しい。 強要するでもなく自分の考えを押し付けるでもなく、ひたすら俺のことを考えてくれる。手を差し伸べてくれようとする。そのことがどうしようもなく嬉しくて、慣れない喜びに胸が痛い。 布団の中で手を胸に当て、意識が薄れる瞬間を待つ。 先生の体温は手と同じで少しだけ冷たい。もしかしたら俺のが人より高いのかもしれないけれど、どっちにしても先生の体温が落ち着くことに変わりはない。 (今日はきっと、良い夢を見られる気がする……) 次第に二つの体温が合わさって、眠りにつく頃には布団の中は心地いい温度に包まれていた。

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