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第29話
*
「じゃあ、その担任と一緒に暮らすってことか?」
俺のシフトは来週からになった。ここにいても邪魔になるだろうし帰ろうとしたら、戸塚君に捕まって根掘り葉掘り聞かれてしまった。
(戸塚君は別の学校だから話しても大丈夫だよね?)
「うん。先生方には事情を話して、他の生徒には秘密にすることになったよ」
「へえー……」
意味ありげな笑いを浮かべて顔を寄せてくる戸塚君。ヤンチャな顔つきだけど、お客さんの中には戸塚君目当てのリピーターがいるくらい整った顔立ちだ。
「な、に?」
そんな彼に顔を近づけられては何だか落ち着かずもじもじしてしまう俺のほっぺを、戸塚君がするりと撫でる。
「望月、お前男でよかったなぁ」
「……どうして?」
言葉の真意が分からなくて戸惑えば、戸塚君はもっと笑みを深くした。それは自分と同い年とは思えないほど、大人びて見えた。
「だって女子高生だったら、なんかエロくね?ぜってー、ヤッちまうだろ」
「や、る?」
「セックス」
「!?」
(せ……せっ!?)
「あ。でも、最近男にも手ェ出す奴いるし気をつけろよ」
全く思いもつかなかったことを言われて頭が追いつかない。
(手を出す?先生が?俺に?)
先生がそんなことするなんてありえないし、自分にそんな魅力があるとも思えない。けど何故か無性に心がざわつくのは、何でだろう。
「何だよ、少しは警戒した方が良いんじゃねえの?」
絶句する俺に、戸塚君は少し不服そうに口を尖らせた。
「や、でも……ありえな……」
「何で?お前弱っちいし、色々されちゃうかもよ?」
「え、え、戸塚君?」
「こんな風にさ──」
顎を掴まれて、近距離にあった顔がさらに近づいてくる。
綺麗な形の唇が俺のそれをめがけて、あと10cm、5cm、1cm──。
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