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第43話
*
無我夢中で走ったら、いつの間にか最寄り駅まで来てしまっていた。ひとまず、外に設置されてるベンチに座ることにした。二つあるうちの一つにはカップルの男女が座っているから、もう一つのベンチに腰を下ろす。
(心配……してるよね……)
足元を見ながら、先生のことを考える。先生は優しいから、絶対に心配してるに違いない。
けど、今戻ったってどうすれば良いと言うのか。先生の顔や部屋の中を見るたびに昨日のことを思い出して、罪悪感に押しつぶされそうになる。
せめて先生が午前中の仕事を終えるまで、なんとか時間を潰したい。携帯も財布も持たずに出てきたから、とりあえず適当に歩こうと立ち上がると、いきなり衝突がおきた。
「んっ」
「わぁ、ごめんね。だいじょぶー?」
「は、はいっ。俺こそごめんなさ──っ!」
俺はパッと顔を上げてすぐに硬直した。
なぜなら、ぶつかった相手が金髪で耳にピアスをたくさんつけた男の子、“ヤンキー”だったからだ。
(こわっ……)
自分の中のヤンキーのイメージは、カツアゲ、タバコ、釘バッド。目の前の金髪さんは「ねえ、大丈夫?」なんて言ってくれてるけど、怯えきった思考では恐喝されてる並みの効果を発揮してる。
こんな人通りの少ない朝にふらふら歩き回ったことを後悔しながら、涙目でおろおろすること数十秒。
「何してんの」
金髪さんの背後から声が聞こえた。
(あれ、この声……)
「とっつー!やーこの子にぶつかっちゃってさー。謝ってんのー」
「はぁ?たっく気を付けろよ……って、お前……」
金髪さんの後ろから姿を現したのは、馴染みある赤髪の男の子だった。
「望月?こんな朝早く何して──」
俺の全身を見て訝しそうな顔をする戸塚君。それで俺は、やっと自分に格好に気付いた。
(あ……俺、パジャマで飛び出して来ちゃった……)
恥ずかしくて後ずさると、「ふーん」と言った戸塚君がおもむろにパーカーを脱ぎ始め、なんとそれを俺の肩にかけてくれた。
「着とけば」
「え、わ、悪いよっ……」
もうすぐ夏だと言っても、Tシャツだけでは朝はまだ肌寒い。だから遠慮してパーカーを脱ごうとすれば、戸塚君はお得意の舌打ちを披露する。
「チッ。うっせーな。いいからさっさと着ろ」
「はっ、はぃっ……」
金髪さんより何倍も怖い口調で言われ、慌てて袖を通した。少しダボっとしてるけど、パジャマ姿よりは断然ましになった。そんな俺を横目に戸塚君は金髪さんに話しかける。
「悪い。俺こいつと話あるから、ここで良い?」
「ん?良いけど、知り合いだったの?」
「まあ、そうだな」
「そおかー。んじゃ、ばいばい!またシよーね♡」
「……ああ」
(また、する……?)
言葉の意味がわからないうちに、金髪さんは戸塚君に手を振って駅の中に入っていった。
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