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第45話 高谷広side
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「はぁっ、はぁっ」
心が出て行ってから急いで後を追ったが、どこを探しても見つからなかった。駅まで来てみたが、ここにもいない。
財布も携帯も持たずに出て行ったから、電車には乗ってないと思うが……まさかあんな可愛い顔をして、こんなにすばしっこいとは思わなかった。
「くそ……」
土曜の朝だということもあって、朝帰りの酔っ払いや若者がちらほら見受けられる。寝間着姿で目立つだろう心が、絡まれていないか心配で仕方がない。
(もし心に何かあったら──)
「あの……」
突然後ろから呼びかけられて振り返ると、若い男女が立っていた。
「あの、もしかして、黒髪で可愛い顔した男の子のお知り合いですか?パジャマ姿の」
「……っ!知ってるんですか?」
「え、ええ。そこのベンチに座ってて、どうしたんだろうねってこの人と話していたら、不良に絡まれて。ね?」
女性に同意を求められた男性が、頷く。
「ああ。けど、様子を見てると知り合いのようだったから、問題ないと思ったんですが……」
(知り合い……?あの心が?不良と?)
ただでさえおどおどしてる心に、そんな知り合いがいるとは思いにくい。 涙目でプルプル震える姿が目に浮かび、思わず拳を握りしめた。そんな俺のただならぬ反応に、二人が申し訳なさそうに眉をさげた。
「すみません。止めるべきでしたか……?」
「い、いえ!教えて頂いてありがとうございます!」
もちろんそうして欲しかったというのが本心だが、赤の他人のためにそこまでする義理はない。むしろこうして情報をくれただけでもありがたいくらいだ。
(とりあえず、心を探さなきゃ)
「あの、その不良の見た目と、行った方向を教えて頂けますか?」
不安がっているだろう心を早く安心させてやりたい。
その思いで、俺は教えてもらった方向へと急いだ。
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