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第47話
「やっぱりいい」
「──んむっ!」
言い終わる前に戸塚君に口を塞がれ、俺の勇気は呆気なく散った。
ホッとしたような肩透かしを食らったような。でもやっぱり、ホッとした感覚の方が大きい。そんな俺とは反対に、戸塚君は「はぁあああ」と大きなため息を吐いた。
「……マジかよ」
俺の口から手を離した戸塚君は、椅子に座り直して手の平で顔を覆う。
(そりゃ、呆れるよね……)
自分でも何やってるんだろって思う。先生とは全然そんな関係じゃないのに、反応してしまった自分が不思議でならない。思い出しただけで、酷い自己嫌悪に陥るくらいだ。
(しかも男同士で……ぁ)
大事なことを思いだした俺は、未だ顔を覆って怠そうにしてる戸塚君に話しかけた。
「あの、戸塚君」
「……何」
「えっと……教えて欲しいことが……」
「何を?」
「そ、そういう時の、対処法……を教えて欲しくて」
昨日先生に教えてもらったけど、パニックになりすぎてて全然覚えていない。剥くとか、出すとか、それ以前にそうならないようにする方法とか、色々知らないことばかりだ。
きっと戸塚君は経験豊富だから、為になる話をしてくれるに違いない。そうしたら、もう先生に迷惑をかけることもなくなるし。
そんな期待を込めてのお願いに、戸塚君はやっと顔を見せてくれた。その顔がさっきとは別の意味で怖いと思ったのは、俺の気のせいだろうか。
「……分かった。教えてやるよ」
気付けば俺はトサッと長椅子に押し倒されていて、戸塚君はポケットから、あるものを取り出した。
「──え?」
もう抵抗することは出来なかった。
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