47 / 242

第47話

「やっぱりいい」 「──んむっ!」 言い終わる前に戸塚君に口を塞がれ、俺の勇気は呆気なく散った。 ホッとしたような肩透かしを食らったような。でもやっぱり、ホッとした感覚の方が大きい。そんな俺とは反対に、戸塚君は「はぁあああ」と大きなため息を吐いた。 「……マジかよ」 俺の口から手を離した戸塚君は、椅子に座り直して手の平で顔を覆う。 (そりゃ、呆れるよね……) 自分でも何やってるんだろって思う。先生とは全然そんな関係じゃないのに、反応してしまった自分が不思議でならない。思い出しただけで、酷い自己嫌悪に陥るくらいだ。 (しかも男同士で……ぁ) 大事なことを思いだした俺は、未だ顔を覆って怠そうにしてる戸塚君に話しかけた。 「あの、戸塚君」 「……何」 「えっと……教えて欲しいことが……」 「何を?」 「そ、そういう時の、対処法……を教えて欲しくて」 昨日先生に教えてもらったけど、パニックになりすぎてて全然覚えていない。剥くとか、出すとか、それ以前にそうならないようにする方法とか、色々知らないことばかりだ。 きっと戸塚君は経験豊富だから、為になる話をしてくれるに違いない。そうしたら、もう先生に迷惑をかけることもなくなるし。 そんな期待を込めてのお願いに、戸塚君はやっと顔を見せてくれた。その顔がさっきとは別の意味で怖いと思ったのは、俺の気のせいだろうか。 「……分かった。教えてやるよ」 気付けば俺はトサッと長椅子に押し倒されていて、戸塚君はポケットから、あるものを取り出した。 「──え?」 もう抵抗することは出来なかった。

ともだちにシェアしよう!