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第49話

* (嘘みたい……先生が俺なんかを探しに来てくれるなんて……) 抱きしめられた身体は少し汗ばんでいて、それほど必死になってくれたと思うと、胸がギュッとなった。 「心……」 ゆっくり離された身体が名残惜しいと思ったけど、見えた先生の顔にすぐに嬉しくなるなんて、あまりにも単純すぎる。自分から逃げ出しといて、会えて嬉しいなんて、俺はわがままだ。 先生は俺のほっぺに手を当てて、スリと撫でる。俺の存在を確かめるように動く先生の手は、いつもより少しだけ熱を持っていた。 「心が不良に連れてかれたって聞いて心配だったんだ」 「不良?戸塚君ですか?あ……あの、戸塚君はバイト先の子で、見た目は怖いけど、良い人で……」 「良い人?」 「はい。お店で男の人に絡まれたときは助けてくれるし、相談にも乗ってくれるので」 さっきも、まさかえっちな動画を見せられると思わなかったけど、結局は俺の相談に乗ってくれてのこと……なんだと思う。驚いたし、恥ずかしくてほとんど目を瞑ってたから、学べたことはほぼ無いけれど。 (戸塚君には悪いことしちゃったな……) 金髪さんのこともこのパーカーのことも、迷惑かけてばっかりだ。 「その服も?」 俺の視線を追った先生がそう尋ねてきたので頷く。 「はい。貸してくれました」 「そっか……ごめん。早とちりだったな」 「い、いえ!こちらこそいきなり飛び出したりしてごめんなさい」 「いや。嫌われるのも当たり前だよな」 「え……?」 (嫌い……?) 「そんな、ちが──」 慌てて訂正しようとしたら、その前に先生が頭を下げた。 「昨日は本当にごめん。本当に浅はかなことをした。心が望むなら、一緒に暮らすのも止めるし、警察にだって──」 「い、嫌です!!」 先生の言葉につい叫んでしまった。俺が大きな声を出したことに驚いた先生が、目をパチパチとさせている。 (一緒に住むのを止める?警察?そんなの嫌だ……) そんなものは望んでない。望むわけがない。だって、先生と過ごすのがどんなに楽しかったか。どんなに嬉しくて、幸せだったか。 どうか、どうか伝わって。その思いで、先生の手をギュッと握る。 「俺……先生と暮らせて本当に、幸せなんです。けど、俺変なんです……先生のこと考えて、胸がキュってなったり、泣きそうになったり……幸せなはずなのに、苦しくなって……」 「心……」 「それで、昨日も……」 変に反応してしまった。だから、嫌われるのはむしろ俺の方だ。 そう思うと、涙が溢れた。 「先生、ごめんなさい……こんな俺、気持ち悪い……」 こんな自分が嫌で仕方ない。 涙を流し続ける俺のまぶたを、先生が優しく撫でる。 「心が気持ち悪いわけないだろ?」 「でも、こんなのっ、変っ」 「心……」 変で気持ち悪くておかしくて。先生と一緒に居てもなんの力にもなれず、むしろ迷惑をかけてしまう俺だけど……。 「でも……でも、一緒に居たいです……」 そう思ってしまう俺は、強欲な人間だ。

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