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第55話
*
「もしかして望月、恋してる?」
もはや習慣となった山田君とのお昼ご飯。山田君は席に着くなり、不思議なことを言った。
「こ、い……?」
(こいって……あの恋……?)
身に覚えがなさすぎて首を傾げると、山田君の両手に両頬を挟まれた。山田君の無垢な瞳が、俺のことを食い入るように見つめている。
「や、山田君……?」
「うーん、やっぱり。なんかさ、キラキラ度が上がってね?」
山田君はそう言って頬から手を離した。
キラキラとは先生や山田君のことを言うのであって、俺は一番それとは遠い存在だ。それなのになぜ山田君はそんなことを言うのだろう。
「キラキラ……俺が?」
「うんうん。前は憂いを帯びた可愛さだったけど、ここ数日はぽわぽわした可愛さっていうか」
「そ、れは……」
可愛いかどうかはともかく、ぽわぽわは身に覚えがある。さっきもそれでやらかしてしまった。
「でも俺……恋ってよく分からなくて……」
男の先生に恋心を抱くわけないし、それ以前に俺は今まで恋というものを経験したことがなかった。学校の女の子を気にするよりも、家でお父さんとお母さんに構ってもらいたくて必死だった気がする。
(先生に対する気持ちは、それに似てるのかな……)
構って欲しい。一緒にいて欲しい。
似てるような気もするし、そうではないような気もする。先生への気持ちは言葉では言い尽くせない、不思議な気持ち。
「会話するだけで嬉しくなって、でもギュッと胸が痛くなって、泣きたくなっちゃうんだよね……」
「えっ」
「え?」
(あれっ!?俺、声出してた……?)
その証拠に、山田君は心底驚いたように、口をあんぐりと開けている。無意識に語っちゃってた恥ずかしさを紛らわすように、俺は慌てて言葉を続けた。
「あ、えっと、ごめ……あの、だから、恋ではない、と思う」
恋ってもっと楽しいもののイメージがある。泣きそうになるなんて多分ない。だから、きっとこれは山田君の勘違いだと訂正したのだけど。
(でも、どうして山田君が泣きそうな顔してるんだろう……?)
俺が心の声を漏らしてから、明らかに様子がおかしくなった山田君。「大丈夫?」と手を伸ばそうとした瞬間、山田君の背後からニョキっとマッシュルームヘアーの男の子が出てきた。
「それは恋だね!」
「え……えと……」
突然の登場と謎の台詞に驚いている俺に、その男の子がひらひらと手を振った。
「どうもー。同じクラスの松野だよ」
「あ……山田君の、友達の」
よく山田君と一緒にいる人達のなかの一人、松野君。いつも眠たそうな目つきだから大人しい人だと思っていたけど、抑揚のある喋り方を聞く限りそうではなかったみたい。
山田君に何か用事かと思ったけど、山田君は放心状態だし、松野君も用がある様子を見せないから、恐る恐るさっきの言葉の真意を探ってみることにした。
「あの……」
「ああ、突然ごめんね。なんか楽しそうだから、混ざりに来ちゃった」
「えっと……松野君、さっき、恋って……」
「そうだよ。それは恋さ」
「いや……で、でも」
先生は担任で、男の人で、従兄弟で。それなのに、恋?そんなことがあり得るのだろうか。
どうしても納得いかない俺に、松野君が「やれやれ」と肩をすくめる。
「もっちー、君はかの有名な少女マンガ『あいつと私はドッキングA判定♡』を読んだことがおありかい?」
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