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第82話 高谷広side

* 明日から木、金と二日間の体育祭が始まる。すでに午後八時を回った職員室からは次々と職員が帰宅していくが、俺はなんだか帰る気になれなかった。 「はぁ……」 背もたれに体重を預けると、ギィと軋んだ音が耳に響く。 心の様子がおかしい。心が家に帰ってから三日経ち、それっきり、心は明らかに俺のことを避けてる。 そして何より──元気がない。 毎日学校に来て、山田や松野と話したりはしてるけど、以前の寂しそうな顔に戻ったような、そんな気がする。 叔父さんと上手くいっていないのかと思ったけれど、叔父さんに電話しても「何も問題ない」の一点張りで、どうすることも出来ない。心が望まない限り、俺はただのお節介でしかないのだ。 (会いたい……) 学校で毎日会っているにもかかわらず、そんな言葉が漏れるほど、俺は重症だった。 机に肘をつき、頭を押さえたところで、机上に置いてあったスマホが光った。 「希……?」 スマホの画面には、すでに別れた恋人の名前が。受信されたメッセージには、『家の前で待ってる』と記されていた。 突然の連絡を不思議に思いつつも、夜に女性を一人にしておくのも心配で、急いで学校を後にする。アパートに着くと、メッセージ通り、部屋の前で希が待っていた。 「希」 呼び掛ければ、希は嬉しそうに振り返った。 「広君っ」 「どうした?」 「広君の部屋に忘れ物があって、取りに来たの」 「忘れ物?」 (そんなものあったか?) 希と別れて数週間経つが、心当たりが全くない。 「まあ、とにかく部屋に──」 ガチャリとドアを開けたところで、後ろから抱きつかれた。 「……希?」 「広君、ごめんね。あの時、私、カァッとなっちゃって。本当は別れたくなかったのに……」 甘えるような高い声が、泣きそうに震えてる。その様子にチクリと胸が痛み、俺は回された手を取って希の方に振り返った。 「……こっちこそごめんな」 「広君……」 「仕事を言い訳にして、寂しい思いさせてたんだよな」 本当に自分勝手なことをしたと思い、謝罪すれば、希は少しだけ声に明るさを戻す。 「じゃあ──」

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