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第87話
*
体育祭当日。
夏直前の暑い日差しが、グラウンドを惜しみなく照らしていて、まさに体育祭日和と言える好天気だった。
「じゃあ、俺行くね」
昼休憩の後は、いよいよリレーが始まる。教室で一緒にお弁当を食べていた山田君と松野君を残して、集合場所へ行こうとすれば、山田君が心配そうに眉を寄せた。
「望月、全然食べてないけど大丈夫?」
「うん。食べ過ぎると、走れなくなっちゃいそだから」
お腹は全然空いてないし、朝からあんまり体調も良くなくて、なんだか食べる気になれなかった。おおかた、昨日のことが影響してるんだと思う。
(だって……先生のこと考えてたら、よく眠れなかった……)
戸塚君には「さっさと寝ろ」って怒られたけど、今日の放課後に話そうって言われたことが気掛かりで仕方なかった。
だけど、そんなことは言えるはずもなく、リレーのせいにしてしまった俺に、山田君と同様に眉を寄せた松野君がペットボトルを差し出す。
「じゃあせめて水だけでも──」
松野君の言葉を遮るように、ピンポーンパンポーンとチャイムが鳴り、教室のスピーカーから放送委員の音声が流れた。
『ブロック対抗選抜リレーに参加する生徒は、グラウンドに集まってください』
「あ……俺行かなきゃ」
上着を脱いで、机の上に畳んで置く。急いでドアに向かえば、背中に声が掛かった。
「応援してるからな!!」
「もっちー、頑張ってね」
「うん、ありがとう。頑張るねっ」
振り返り、二人に手を振って教室を後にする。
小走りでグラウンドに向かった際に、わずかに感じた頭の痛み。この時の俺は、それをいつものことだと思い、大して気にすることはなかった。
そうしてリレーが無事終わり、二人の元へ戻ると、山田君が俺の手をガシッと掴んで、歓迎してくれた。
「望月!すっっっげぇ、カッコよかった!!」
「わ。ありがとう、山田君」
「本当に凄かったね。ずっと順位をキープしてた」
「えへへ……二人が練習に付き合ってくれたおかげ。本当にありがと」
称えてくれる二人に照れ臭くなりながら、お礼を言う。
(頑張って練習して良かった……)
そんな達成感とは裏腹に、走り終わって気が抜けたのか、どっと疲労感が襲いかかり、こめかみには冷や汗が伝った。この暑いのに冷や汗だなんて、異常かもしれないと自覚し、わずかな焦りが生じる。
(頭……痛いかも……)
なんだかボーッとするし。
「……っ」
(なんか、立ってるのも辛い……)
「望月?どした?」
「う、ううんっ……なんでもな──」
(あ──)
強がる口とは反対に、くらりと目眩がしたところで、グイッと引き寄せられ、俺はポスッと誰かの胸に収まった。
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