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第98話
*
朝のSHRが始まるまでの時間、席について今朝のことをぽーっと考える。
先生にキスしてもらうには、どうしたら良いんだろう。おでこや頭でさえ、あんなにもドキドキして幸福なのだから、唇にされたら……と想像して、慌てて首を振った。
「うぅ……」
変な妄想をしてしまった自分が恥ずかしくなって、机に突っ伏す。ほっぺに伝わる机のひんやりとした温度が、少しだけ心を落ち着かせてくれた。
(やっぱり、ちゃんと言うしかないのかなぁ……)
そもそも、俺が慣れてなくてすぐ恥ずかしがるから、この状況が起こっているわけで。先生はとにかく優しいから、俺がもう大丈夫ですって言わなきゃ、先に進めない気がする。
(でも、こんなにしたがってるの、俺だけかもしれないし)
先生は俺より何歳も年上で、色々なことを経験しているはず。だから、こんなに色めき立っているのは俺だけという可能性もあり得る。
キスがしたいだなんて言って、もし先生が同じ気持ちじゃなかったら恥ずかしすぎるし、えっちな子だと幻滅されでもしたら、俺はショックで死んでしまうだろう。絶対に立ち直れないのは、目に見えてる。
(だけど……)
先生のことが好きで好きでどうしようもなくて、だからもっと触れたいって思ってしまう。
何もかも初めての俺は、この感情が普通なのか異常なのかさえ分からないけど、それでも、先生のことが大好きだって気持ちに違いはない。
(だからやっぱり……)
「したいなぁ……」
「何を?」
「──っ」
思わず声に出してしまった心の声に、思わぬ返答が来て、俺は慌てて机から飛び起きた。そこには朝から元気いっぱいに笑う、俺の友達の姿が。
「山田君っ」
「おはよ!望月!」
「お、おはよう」
「で、何がしたいの?」
「え!?あ、えっと……」
(ど、どうしよう……)
純真無垢な笑顔を向けてくる山田君に、俺は背筋が凍るような思いだった。
キスがしたい。しかも、先生と。
(だ、駄目駄目!)
そんなこと間違っても言えるわけない。
「あ、あの……その……」
上手く嘘をつける気がしなくて、もごもごと口ごもってしまう。そんな俺に、山田君は「あっ、もしかして!」と閃いた顔で机に手をついた。
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