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第97話
*
七月も半ばに入り、あとは夏休みを待つだけ。
食中毒に当たらないように、生物を避けてお弁当を作っていると、後ろからふわりと抱きしめられた。
「おはよ、心」
「お、おはよう、ございます」
振り向くと、ちゅ、とおでこに降りてくる柔らかな感触。
もう何度も受けているのに、俺は決まって顔を赤くしてしまう。そんな俺に、先生はもう一度、二度、さらにいっぱい、同じ場所に唇を落とした。
「せ、せんせっ……早く支度しないと……」
「んー……あと一回だけ」
「そ、そんなこと言って、昨日もたくさん……」
あの日……りょ、両想いになった日から、先生は元々の優しさに加え、信じられないほど甘くなり、俺はそんな先生に翻弄されっぱなしだった。
おでこや頭にばかりキスをして、先生は飽きないのだろうか。もちろん俺は飽きるどころか、ドキドキしっぱなしだけれど、俺のそこにそれほどまで魅力があるとは思えない。なんの変哲もないおでこと頭だ。
「も……せんせぃ……」
力の入らない手で先生の胸を押して、先生を上目で見る。もしかしたら少し睨んじゃっているかもしれないけど、そんなことを気にする余裕はなかった。
「……駄目です。俺……ドキドキし過ぎて、死んじゃいます」
(うぅ……恥ずかしすぎる……)
自分がこんな台詞を吐いているのが、恥ずかしくて仕方ない。
涙目になる俺に、眼鏡姿の先生は苦笑いを浮かべ、俺の頭をポンポンと撫でた。
「んー、それは困るなぁ……ごめん。いじめすぎた」
「……っ!」
謝りながらも、もう一度唇を落としてから洗面所に向かった先生を、俺は真っ赤になりながら見送る。
「もぅ……」
決して嫌なわけじゃないし、むしろすっごく嬉しくて幸せで、によによしてしまいそうだけど、やっぱり恥ずかしいのが優って素直になりきれない。
いつまでたっても俺がこんな調子だから、先生は我慢しているのだろうか。大人な先生が、こんなもので満足するとは思わない。もし我慢してるのなら、日々回数が増えていっているのも頷ける。
(俺はもう、ちゃんとしたキス……したい、けど……)
でも、自分から「もっとしてください」なんて、恥ずかしいおねだりが出来るわけもなく。
「……おでこ、熱い……」
俺はひとまず、このおでこの熱をどう冷まそうか、考えることにした。
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