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第138話

* 海に着いてからも、俺はなかなか先生に謝罪を切り出せなかった。そんな風にいつまでもウジウジしているうちに、早々に着替えた先生は尾上さんとパラソルを立てに行ってしまい、俺は完全に謝るタイミングを逃してしまった。 (早く謝らなきゃなのに……俺の馬鹿っ……) 素直に謝れない自分に嫌悪感を抱きながら脱衣所を出る。すると、先に外で待っていた山田君が「うぎゃっ」と叫んで、バッと手で顔を覆った。 「え……」 (ど、どうしたんだろう……) あまりの手の速度に、つい呆気にとられてしまう。バチンッと凄い音がしたし、山田君の顔が心配だ。 「……や、山田君、大丈夫?俺、なんか変だった?」 「いいいいや!?全然!ちっとも変じゃないよ!?むしろ良い!すごく良い!!」 「……?」 山田君の行動の意味が分からなくて首を傾げていると、後ろから戸塚君が顔を覗き込んできた。水着の上に前開きの半袖パーカーを着てる戸塚君。その表情は、何故かとても不機嫌そうだ。 「おい。お前、羽織るもん持ってきてねえのかよ」 「え……」 (羽織るもの……?) 周りを見渡せば、戸塚君のように上着を着ている人がちらほら。 そういえば、荷物を詰めているときに先生が、日差しが強いから持ってった方がいいよって教えてくれた。もちろん言う通りに持ってきたのだけど……。 「あ……着るの忘れてた。荷物の中だ……」 (ボーッとしてたから……) 先生のことばかり考えて、水着を着ただけで力尽きてしまった。そんな俺に戸塚君がため息をつく。 「はぁ。たっく……気をつけろよ」 「ご、ごめんなさい……」 「ちげえ。別に謝る必要はねえけど……お前の場合、ああいう奴がいるんだっつの」 戸塚君は嫌そうに眉をひそめて、山田君の方を睨む。俺も戸塚君に倣って視線を移すと、山田君は顔を覆っているものの、指の隙間からチラチラとこっちを見ていた。日差しのせいなのか、耳まで真っ赤だ。 (こっちっていうか……胸元?) 「ピンク……桃色……いや、桜色……と、とにかく、ヤバい」 「山田君?」 山田君がブツブツ何かを言っている。頑張って聞き取ってみると、どうやら果物の名前を言っているようだ。 (桃?さくら……さくらんぼ?海の家にあるのかな?) そう考えついた俺は、山田君に一歩近づいた。 「もしかして、食べたいの?」 ただ普通に聞いただけだったんだけど、俺の質問を聞いた瞬間、山田君はボボっと茹でダコみたいになった。そして、ザザッと勢いよく後ずさり、首をブンブンと左右に振った。あまりの勢いに、首が取れてしまうんではないかと心配になる。 「そ、そそそそんなまさか!しゃぶりつきたいなんて、まさかそんな!!」 「えっ、しゃぶり……?」 「……っ!なななんでもない!!お、俺っ、泳いで頭冷やしてくる!!」 「えっ、山田君!?」

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