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第141話 高谷広side
「……止めますか?」
教師と生徒。尾上先輩はそれをよく知っている。それなら、俺たちの関係に反対するのではないだろうか。俺なら後輩が非行に走っていたら、全力で止める。
だからそう問うたのだけど、俺の予想に反して、尾上先輩は首を傾げただけだった。
「いや?広が無理やり関係を強いてるなら話は別だけど、そうじゃないだろ?」
「……それは、そうですけど」
「じゃ、問題ないだろ」
「……」
教師が未成年に手を出しているのだから、問題は大有りだけど。まあでも、そう言ってもらえるなら、それに越したことはない。
誰になんと言われようと、今さら心と離れることなんかできない。心が望んでくれる限り一緒にいるって、告白をしたときに決めたんだ。
黙った俺に、尾上先輩は訝しげな顔を向け、顎に手を当てた。
「でも分からないな。恋人なのはともかく、親戚だってことは秘密にする必要性を感じない。その方が、一緒に住んでるってバレても誤魔化しがきくし」
(それはそうなんだけど……)
そのリスクを負おうとも、俺にはどうしても秘密にしたい理由があった。
「……そうしたら、心は言いたくないことまで聞かれるかもしれないので」
「父親のこと?」
「……はい」
俺と住んでるのがバレたら、どうしたって周りから理由を聞かれてしまうだろう。その質問に悪気がなくたって、嘘がつけない心は、必然的に叔父さんのことを話してしまう。そうすれば、心が辛くなるのは目に見えている。
それが嫌で、俺は関係を隠すことに決めた。先生方にもそう説明して、叔父さんについては触れないようにお願いしてある。
「ふーん。よく考えてあげてるんだな」
「まぁ……大事なんで」
「ははっ。その大事な子にあんな悲しい顔させちゃ駄目だろ」
(う……)
痛いところを突かれた。俺は気まずさから目を逸らす。
「……分かってますよ。反省してます」
「ふーん、なら良いけど。……まあでも、望月君って本当に可愛いよな。あの純情で初心な子を啼かせたい気持ちは分かる……」
「あの、尾上先輩?酔ってます?」
(酔うと変なこと言うんだよな、この人……)
大学時代も、何度かこういう話題になったことがある。泣かせたいとかいじめたいとか。俺はそんな過激なことは、よく分からなかったけれど。
ジト目を向ける俺に、尾上さんが苦笑した。
「忠告してあげてるんだろ。望月君のこと大事にしてるのは、広だけじゃない」
「……」
「御坂さんだって、あんなに夢中になってる。今も落ち込んでる望月君を慰めてるんじゃないか?」
尾上さんが顎で指した方向を見ると、心と御坂さんがしゃがみ混んで話していた。
「まあ、あの人の場合は母性的なものだろうけど」
少し強めに言った尾上さんが、ビーチチェアから立ち上がる。
「じゃー、俺はもう一杯飲んでくるわ」
「えっ、もう飲んだんですか?」
尾上さんの手元を見れば、空のコップが。尾上さんは背を向けて、ヒラヒラと手を振った。
「荷物頼むな。望月君来ても逃げんなよ」
「……はい。ありがとうございます」
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