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第145話

それからは俺が落ち着くまで、パラソルの下で体育座りをする俺の背中を、先生がさすり続けてくれた。周りからは訝しそうな視線を向けられていたけれど、先生は気にせず側にいてくれる。 「先生……ごめんなさい」 俯きながらポツリと呟いた俺の頭を、先生が優しく撫でた。 「いや……俺が悪かった。ごめんな。俺が変な態度取ったから、パニックになっちゃったんだよな」 (パニック……) 自覚はなかったけど、そうなのかも。確かに普通の行動ではなかった。先生に嫌われたらと思うと、怖くて怖くて。正常な思考が働いてなかったかもしれない。 (ほんと、情けない……) 普通の人だったらなんてことないことも、俺はこんなに大騒ぎして、本当に恥ずかしい。 どうして俺は皆と同じように出来ないのだろう。最近は順調だった前向き思考も、今日ばかりは後ろを向いてしまう。 「……ごめんなさい」 「なんで。心は悪くないよ。不安にさせて、ほんとごめんな」 申し訳なさそうな声にさらに胸が苦しくなった。だって、先生は悪くない。ちっとも、これっぽちも、悪くない。 (俺が悪い。全部、俺が悪いの) いつまでもウジウジしてるわけにはいかない。俺は覚悟を決め、先生に向き直って、正座をした。足に砂が付いちゃうけど、今はそんなの気にならなかった。ただただ謝ることしか頭になくて、先生の目をしっかりと見つめてから、深々と頭を下げる。 「俺……本当は、あの時すぐに気付かなくちゃいけなかったのに……無神経なことして、ごめんなさい」 先生は嫌な思いをしてたのに、俺は皆と一緒に海に行けることに浮かれてるばかりだった。 そのくせ、先生が女の人に話しかけられたら、絶対に嫌だって思った。行かないでって、あの笑顔は俺だけに向けて欲しいって、そう思ったの。 (俺、同じ思いをさせてたんだよね) ……いいや、同じなんかじゃない。俺の方がもっと酷い。だって、ただされるがままだった俺とは違って、先生はちゃんと断ってくれていたのだから。 「これからはちゃんと気を付けます。みんなと距離が近くなりすぎないように。だから……本当にごめんなさい」 「……」 頭を下げ続ける俺のほっぺを、先生がスルリと撫でた。ゆっくり顔を上げると、先生は驚いた表情をしていて、そしてどこか嬉しそうだった。 「……先生?」 どうして嬉しげなのだろう。コテンと首を曲げる俺に、先生は照れたように笑う。 「いや……理由、分かってると思ってなくて」 「え?」 「いや、ほら、心って天然なところあるだろ?それなのに、ちゃんと考えて、気付いてくれたんだなって」 (天然……?) その言葉はあまりしっくりこなかった。だって、俺は天然じゃないと思うから。どちらかというと、戸塚君が言うところの『アホ』なのではないだろうか。

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