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第148話

聞き慣れた大きな声がして、ザパァッと水が襲ってきた。思わず目を瞑り、水飛沫が止んだ頃に目を開ける。するとそこには、ビッショリと濡れた先生の姿があった。 「せ、先生!?大丈夫ですかっ」 「……うん」 先生が髪を搔き上げる。その姿は、とても色っぽくてカッコ良くて、水も滴るいい男という言葉は、先生のためにあるのではないかと思うほど、キラキラ輝いていた。 (ふぁ……カッコいい……) 胸をドキドキさせながら、濡れた先生に釘付けになってる俺。その一方で、先生は冷ややかな目をしていた。そんなクールな先生も、珍しくてドキドキしちゃう。 (もう、なんでもいいのかも……) どんな先生でも好き。そんなことを思っちゃう俺は、さっきの仲直りで浮かれているのだろう。 「……」 先生が「せっかく可愛かったのに……」とよく分からないことを呟きながら、後ろを振り返る。そこには、先生を盾にするように隠れる山田君の姿が。どうやらさっきの助けを求める声は、山田君のものだったらしい。先生に冷たい目を向けられた山田君は、ワタワタとしながら手を合わせた。 「わああ!ごめん先生!でもさ、戸塚が俺のこと襲ってくんの!」 「はぁ?てめえが水遊びしてえって言ったんじゃねえか」 いつのまにか先生の背後に回っていた戸塚君が、不機嫌そうに言った。山田君は先生に隠れながら、顔だけを戸塚君に見えるように出した。その表情は恐怖でいっぱいだっだ。 「言ったよ!?けど、こんなガチでする!?マジ怖いし、マジ死ぬから!てか、遊びたいって言ったのは、望月もって意味だから!な!望月!」 「う、うん」 あまりの圧にびっくりして、言われるがまま頷くと、さっきまで恐怖におののいていた山田君が、パアッと顔を輝かせ、視線を俺が乗っているシャチフロートに向けた。 「えっ、何それ!?すっげえ楽しそうじゃん!サメ!?」 切り替えが早いのは山田君のいいところであり、尊敬するところでもある。 「あ、えっと、これは──」 シャチもサメもそんなに違わないし、とりあえず先生が借りて来てくれたことだけを伝えようとした瞬間。 「はっ。シャチだろ。アホか」 戸塚君が鼻で笑った。でも、バカにしているよりは呆れているような、そんな表情だ。そんな戸塚君に対して、山田君は堪忍袋の緒が切れたかのように憤慨した。 「だーっ!なんでそうすぐにアホアホ言うんだよ!?俺なんか悪いことした!?」 「してるだろ。朝から今まで、ずっと」 「は!?」 「目障り」 「ひどっ。って、わー!こっち来んなし!!」 バシャバシャと山田君が逃げて、戸塚君がそれを追いかける。山田君は戸塚君に水を掛けて抵抗するも、すぐに返り討ちにあい、「うわぁっ」と大声を上げた。 「賑やかだなぁ……」 「若いなぁ……」 「……!」 「ははっ」 「ふふ」 同じタイミングで言葉を漏らした俺と先生は、顔を見合わせ笑い合った。そして、先生はグリップを掴んでいた俺の手に先生のそれを添えて、優しく微笑んだ。 「心も混ざったら?」 「……良いんですか?」 「もちろん。言ったろ?いっぱい遊んで欲しいって」 「っ!はいっ」 先生のその言葉が嬉しくて。俺は目を輝かせて、コクッと頷いた。 「俺も、水掛けたいっ」 俺は足をバタバタさせて二人に近づく。その際に、ちゃんと二人の方向に行くように、先生がシャチを押してくれた。 「えっ、マジ!?じゃあ一緒に戸塚やっつけようぜ!!」 山田君が俺を引っ張って、引き寄せてくれる。 「はぁ?ならセンセイ、こっち入れよ」 「いや、うーん……まあいっか。山田、溺れるなよ」 「なんで俺だけ!?」

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