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第149話

* 「あー楽しかった!な!望月!」 帰りの車。行きと同じで、隣に座るのは山田君。ニカッと笑いかけてきた山田君に、俺も満面の笑みを浮かべた。 「うんっ。すっごく楽しかったっ」 本当に本当に楽しかった。皆で思う存分水遊びをした後は、尾上さんと御坂さんも加わって海の家で焼きそばを食べた。家で食べるよりも美味しく感じるのは、海水浴の醍醐味だって山田君が教えてくれた。 「山田君、泳ぐの上手くてびっくりしちゃった」 「へへっ。運動は得意だからさっ」 「ふふ。あと、山田君腹筋割れてるんだね。いいなぁ……」 「へっ!?え、いやっ、えっ、見たの!?俺の!?」 山田君がガッと目を見開く。 「……?うん」 俺はコクリと頷いた。 見たと言うより、遊んでいたら自然と目に入ったって感じだけれど。 「ええっ、やばっ!!どうしよ!!」 山田君が顔を真っ赤に染めて、あまりにも驚愕した表情を浮かべるので、見ては駄目だったのだろうかと心配になる。 (山田君って、案外恥ずかしがり屋さんなのかな……?) 嫌だったなら申し訳ないことをしたな、と思ったけれど、山田君はそんな俺の心配をよそに、一人でブツブツと呟き始める。 「……この日の為に鍛えたかいがあった……兄ちゃんがいきなり、筋トレのスパルタ指導しだしたのって、この為だったんだ……辛かったけど……死ぬかと思ったけど……ありがとう、兄ちゃん……」 「……?」 (この日のため?あっ、そっか。周りの人に見られちゃうもんね……) そういえば俺も、知らない人にチラッと身体を見られた。その大体は男の人だったから、俺の筋肉のなさを見ていたのかもしれない。 「俺は筋肉全然ないから、恥ずかしいな……」 ポソッと呟く。するとそれに反応した山田君が、ブンブンと首を振った。 「いいいいやっ!?そんなことない!!むしろ良い!!最高!!」 「え?あ、ありがとう……?」 「お、おうっ。どういたしまして!!」 (フォローしてくれるなんて、山田君はやっぱり優しいなぁ……) しみじみそう思っていると、後ろの尾上さんが山田君の頭を引っ叩いた。山田君は「いでっ!」と声を上げて、「何すんだよ!」と尾上さんをキッと睨んだ。 「お前なぁ、さっきまでは感謝してたくせに、そんな睨むなよ。それより、望月君に言いたいことあるんだろ。早くしないとそろそろ着くぞ」 「え?……あっ、そうだ!そうだった!」 山田君は何かを思い出したように背筋を正して、俺の方を向いた。その表情はどこか緊張しているものだった。 「あのさっ、望月」 (……なんだろう?) 俺もピンッと姿勢を正す。 「うん、なに?」 「えっと、さ……今度夏祭りあるじゃん?」 「うん」 そう。山田君の言う通り、もう少しで夏祭りがある。去年までは関係なかったイベントごとだけど、今年は違う。ひと味もふた味も違う。 (だって──) 「でさ……一緒に行かね?ふっ、二人でっ」 「えっ」 思わなかった提案に素っ頓狂な声が出てしまった。慌てて口を抑えるも時すでに遅し。俺の気持ちは山田君に伝わってしまっていて。山田君は傷ついた顔で俺を見た。 「え……もしかして駄目な感じ……?」 「あ、えっと……ご、ごめんなさいっ」 俺は慌てて口から手を離し、山田君に頭を下げる。 「先約があって……」

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