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第151話

* 大変なことになった。正しくは、これから大変になる、だけど。 「うぅ……どうしよ……」 時刻は午後九時。ベッドの上で正座している俺は、尋常じゃないほど緊張していた。どうしてこんなにも緊張してるかと言うと、約一時間前まで遡る── 海水浴からの帰宅後、俺はやっぱり今日のことが申し訳なさすぎて、何かお詫びできることはないか考えた。料理中も食事中もずっと考えていたけど、いい考えが思いつかず、最後の手段として先生に決めてもらうことにした。 「あのっ、俺……どうしてもお詫びしたくて……何か俺に出来ることはないですか?」 洗ったお皿を、布巾を持った先生に手渡しながら、そう提案する。先生はきょとんとして、そして手を動かしながら、おかしそうに笑いを漏らした。 「はは。ずっと難しい顔してると思ったら、そんなこと考えてたのか?」 「だって……」 「そんなの良いよ。もう気にしてない。気持ちだけ受け取っとく」 「でも……」 どうしてもお詫びがしたい。食い下がる頑固な俺に、先生は困ったように苦笑したが、しばらくして「あ」とひらめいた顔をした。そして俺に、ニコッと爽やかな笑顔を向け、驚きの一言を放った。 「じゃあ、寝る準備したらベッドの上で待ってて」 ──そうして今現在、先にお風呂を終えた俺は、ベッドの上で先生がお風呂から上がるのを待っている。 普段は別々に寝ているため、掃除の時以外は触れることのないベッド。この上でいつも先生が寝ている。そう考えただけでも、クラクラしちゃうのに、それに加えて、この部屋は先生の匂いでいっぱいだった。大好きな先生の匂いだけれど、ここまで充満していると、変な錯覚に陥ってしまいそうだ。 変な錯覚。変な想像。それはもんもんと頭の中に浮かび上がってくる。 (こ、これって、そういうことだよね……?) 先生の実家で一緒に寝た時とは違い、今は二人きり。その状況で、好きな人と夜を共にするということは……つまり、そういうことがあり得るわけで。 (う、上手く出来るかな……) 上手くできるか以前に、詳しいやり方さえ分からない。ちゃんと先生を満足させられるだろうか。 手に汗を握り、心臓をバクバクさせながら待っていると、ガラッと部屋のドアが開いた。入ってくるのはもちろん先生で、例のごとく眼鏡をかけていた。 「心?なんで正座?崩していいよ?」 「ひゃいっ……い、いえ!」 本人が来たことで俺の緊張は高まり、変な声を出してしまう。先生はクスクスと笑い、ベッドに上がるべく膝をついた。それと同時に鳴った、ギシッと生々しいしい音が、緊張を掻き立てる。 「あ、あ、あのっ……お、俺っ、そのっ」 先生から漂うせっけんの匂いに、胸がバクバクと高鳴る。まだ何もしていないにも関わらず、すでに限界を超えてしまった俺は、顔を真っ赤に染めながら、とっさに三つ指をついて深々と頭を下げた。 「俺っ、何も分からないので、そのっ、ごっ、ご指導ご鞭撻のほどっ、よろしくお願いしますっ」

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