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第152話
「しーん」
頭上から聞こえた穏やかな声。恐る恐る頭を上げると、腕を引き寄せられて、ポスっと先生の胸に収まった。お風呂上がりの良い香り。先生は俺を落ち着かせるように、ゆっくりと背中をさすってくれる。
「そんな緊張しなくても、大丈夫。しないよ。ちゃんと心のこと大切にしたいと思ってる」
「……へ?」
「だから、力抜いて?」
ヨシヨシと背中を撫でる手と、優しい声のおかげで、徐々に身体の強張りがとけていく。大きな身体に体重を預け、ホッと息を吐くと、先生は俺の頭にチュと唇を落とした。
「ごめんな。紛らわしかったな」
「え……?」
「最後まで……とか、そういう意味じゃなかったんだ。ほら、俺たち、外ではあんまり触れ合えないだろ?」
……先生の言う通りだ。俺たちは同性以前に、教師と生徒。今日、海で楽しそうに仲良くしている恋人さんたちを見て、改めて俺たちはイケナイ関係で、普通ではないのだと思い知った。
「……」
黙ってしまった俺のほっぺを、先生がスルリと撫でる。
それ動きはまるで、俺の沈んだ気持ちに気づいて、慰めてくれているみたいで。そういう、俺のちょっとした変化に気づいてくれるのが、どうしようもなく嬉しい。
抱かれながら顔だけを上げると、おでことおでこがコツンと合わさった。お風呂上がりだからか、先生の体温はいつもより暖かい。それがすごく落ち着く。
「だから……せめて家にいる時だけは、心のこと独り占めしたい」
「……っ」
その言葉に、胸が締め付けられた。苦しいくらいに、きゅうって。先生に『独り占め』されるなんて、嬉しくて嬉しくて泣いちゃいそうだ。
「ということで……」
おでこが離れていく。俺を映す瞳は、穏やかで優しくて。俺の手を握った先生は、少しだけ照れたような表情を浮かべた。
「手始めに、今日から一緒に寝るってどうですか?」
「一緒に……?」
「ん。そうすれば、寝る瞬間までお互いを感じてられるだろ?」
「……っ」
(寝る、瞬間まで……)
なんて魅力的な提案なのだろう。一日の始まりと終わりの瞬間、先生の近くにいて良いなんて、想像しただけで幸せ過ぎる。断る理由なんかどこにもない。だから俺はコクコクと頷いた。
「はい……嬉しいです」
「……良かった」
はにかむと、先生はホッとしたように笑った。
「心……」
顎に手を添えられ、先生のカッコいい顔がゆっくりと近づいてくる。ずっと見ていたいな。なんて思いつつも、俺は素直に目を閉じた。
「ん……」
数秒後にそっと触れた唇。それはすぐに離れていき、そしてまた、二度、三度と啄ばむようなキスをされた。気持ち良くて自然と開いてしまった口に、柔らかい舌が入り込む。
「んぅ……んっ、ん」
トロトロになるようなキス。舌の裏をなぞられると、とっても気持ち良くて、俺は先生の背中に手を伸ばし、キュッと力を込めた。
「……んぁ……んん」
「心……」
「ふぁ……せんせ……」
唇が解放され、トロンとした目で先生を見つめる。
「可愛い……」
甘く微笑んだ先生は、枕に頭が乗るように、俺の身体をゆっくりとベッドに横たえ、外した眼鏡を脇の机に置いた。
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