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番外編 戸塚君とアホ望月①
*
七月上旬の日曜日。
とある目的のために一人でショッピングモールをぶらぶらしていたら、偶然なことに、ある人物と遭遇した。
「あーっ。あの時のおどおどちゃんだー!」
俺の姿を見た途端に声を上げ、小走りで駆けてきたのは、金髪で両耳にたくさんのピアスをつけている、綺麗な男の人だった。
「お、おどおどちゃん……?」
聞き慣れない呼び名にきょとんとしていると、近くまで来た金髪さんがニコッと笑う。
「この前会ったとき、俺にビビッておどおどしてたっしょ?パジャマちゃんと迷ったけど、今決めたっ。君のあだ名はおどおどちゃん!」
「あ、あはは……」
思わず苦笑を漏らしてしまう。
そう。初めて金髪さんと会ったのは、俺が先生にその……え、えっちなことを教えてもらって、それでパニックになって、外に飛び出しちゃったとき。それはとっても恥ずかしい思い出で、今すぐ記憶から消してしまいたいくらいだけど、残念なことに、金髪さんははっきりと覚えているようだ。
「それで?おどおどちゃんはここで何してたの?」
「えっと……」
(ち、近いっ……)
話すたびに距離を縮めてくる金髪さん。嫌というわけではないのだけど、条件反射で後ろに下がってしまう。そうすれば金髪さんがまた近づいてきて、俺もまた一歩下がる。それが何度も何度も繰り返し続いたとき……。
「近い」
と、不機嫌そうな声が聞こえて、金髪さんの甘いミルクの香りが離れていった。その代わりに視界に現れたのは、片耳にリングのピアスをした、赤髪の男の子。
派手な見た目と鋭い目つき。誰もが一瞬ひるんでしまいそうな出で立ちだけれど、俺にとっては全然怖くない。むしろ、こうして休日に会えたことを嬉しく思うくらいだ。
「たっく。いきなり消えたかと思えば……気安く近づいてんじゃねえよ」
「えぇー。とっつーのケチんぼ。何してたのか聞いただけじゃんねー」
服をぐいぐい引っ張られながら、口を尖らせる金髪さん。『とっつー』というのは、もちろん戸塚君のこと。どうやら二人は一緒にお買い物に来ていたらしい。
(服……伸びちゃう……)
そんな的外れな心配をしていたら、金髪さんに「おどおどちゃん?」と呼びかけられ、ふと我に返った。そしてペコっと頭を下げる。
「は、はい。あの、ごめんなさい。俺、つい逃げちゃって……」
「当たり前だろ。こんな図々しいやつ、誰でもごめんだっつうの」
「えーっ。とっつー、ひーどーいー!俺たち今朝までイ・イ・コ・トしてたなかじゃーん……イ゛ッ!?」
(えええっ!)
突然戸塚君にすねを蹴られた金髪さんが、その場にうずくまる。「いったぁ~」と目に涙を浮かべる金髪さんに、俺は慌てて駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うぅー……いたぁい……」
「そこのベンチまで歩けますか?」
「うん……頑張る」
肩を貸しながら、幸いにも数歩先にあったベンチにたどり着いて、金髪さんの腰をおろす。すると、いきなりぐいっと腕を引っ張られ、なぜか俺まで座ってしまった。
「ふぇっ?」
「ふふふー。おどおどちゃんはやっさしーねぇ。どっかの誰かさんと違って」
さっきまで浮かべていた涙は跡形もなく、金髪さんはニコニコしながら俺の肩を抱いた。
「えっ?えっ?」
状況がつかめず戸塚君を見上げると、「はぁ」とため息を吐かれてしまった。
「そういうやつなんだよ、こいつは」
「えーほんとに痛かったしー」
「手加減しただろ」
「手加減しても痛いものは痛いんですー!」
(蹴ったときはびっくりしたけど、仲良しさんだなぁ……)
言い合いをする姿を見つめながら、そんなことを思う。
金髪さんだって、戸塚君と同じくらいカッコいいのに、戸塚君と言い合いする姿はなんだか可愛らしい。それはやっぱり──
(恋人さん、だからなのかな……)
どうして二人が付き合ってると知っているのかと言うと、前に戸塚君が金髪さんを『せふれ』って言ってたから。せっくすって言うのはえっちのこと。そして、えっちは好きな人とするものだから。だから二人は恋人同士。
(ふふっ……)
未だいがみ合う二人の様子を、微笑ましい思いで見ていたら、チラッと戸塚君がこっちを見た。
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