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第173話

 「心……それは違う」  「ふぇ?」  真面目な声にビックリして、恐る恐る顔を上げる。すると、先生は俺を慰めるようにほっぺを撫でた。  「生徒と教師なのは、ちゃんと割り切ってるよ」  「ほんと?俺が年下なの、嫌じゃない?」  「嫌なわけないだろ。俺は今の心が好きだし……それに、それを気にしてたら、指一本だって触れられない」  先生が俺の手を握って、そこにキスを落とし、「良いこととは言えないのは重々承知だけど」と眉を寄せて笑った。  「じゃあ……どうしてですか?」  「んー……そういうのは除いたとしても、最後までするのは、心の身体に負担がかかるだろ?」  「え……?」  「あ、いや。もちろん心がアッチをやりたいって言うなら、要相談だけど……」  ちょっと焦ったように言った先生に、慌てて首を振る。俺は最初から女の人の役をやると思ってた。先生にしてもらいたいなって。何故かは分からないけど、そういうものだと思ってたの。  すると、先生は安心したように身体の力を抜いた。そして同時に俺もホッとした。  (良かったぁ……)  この年齢差が壁になっているんじゃなくて、本当に良かった。だってそれは、対処しようがないものだから。どんなに努力しても、年齢だけは絶対に変わらない。  「受ける方は相当負担らしいから……俺も初めてのことだから、上手くできるか分からないし」  そんな風に思ってくれてたなんて。  (それなのに俺……)  先生は俺の身体のことを思ってくれていたのに。  途端に自分の考えてたことが恥ずかしくなった俺は、顔を隠すように俯いた。  「ご、ごめんなさい……俺、はしたない……」  えっちをしたがってる、いやらしい子だと思われたかも。そんな俺の心配は、先生がギュッと抱きしめてくれたから、杞憂に終わった。  「俺の方こそごめんな。こんな話、心から言わせるなんて」  フルフルと首を振る。違うって伝えるために。  「先生……悪くない、です」  「いや。大事にしたいって思いながら、ただ臆病になってただけかも。心を怖がらせて、嫌われるのが怖かったんだ……」  ギュウッと身体を抱く腕の力が強まる。俺はそれに応えるかのように、先生の背中に手を回して、力を込めた。  「先生……俺、何も分からないから、迷惑かけちゃうかもしれないけど……でも、絶対に負担だとは思わないです。だから……」  (だから……だから……)  その先は恥ずかしくて言えなくて。でも本当は言いたくて。  「心……していい?」  言えない俺の代わりに、先生が言ってくれた。  「今日すぐには無理だけど、準備だけ」  「準備、ですか……?」  「うん。心に俺のを受け入れてもらえるように」  (準備……)  俺は先生の胸の中でコクリと頷き、そして上を見上げた。微笑む端整な顔だちに胸をきゅうんとさせながら、近づく唇を受け入れた。

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