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第192話
「なんなんだよ!俺の方が長い付き合いなのに……こんないきなり、横から取られた気持ちが分かる!?」
(……んん?)
「山田はいっつもそうだ!ちょっと優しくされただけで、簡単に惚れて!そしてすぐに振られる!慰める俺の気も知らないで!」
(……んんん?)
「今まではまだ良かったよ……相手がゆるふわ系の女だったから、諦めも付いてた!それなのに……こんな……男もいけるだなんて聞いてない!」
憤る栗原君の声。最初は戸惑ってばかりの俺だったけど、徐々に頭の整理がついてくる。
(これって、つまり──)
「え、えっと……それが、俺のこと嫌いな理由?」
そう尋ねると、栗原君は顔を赤くしながらプイッとそっぽを向いた。
「それ以外に何があるの?こっちだって、理由もなく人をいじめる趣味なんてない」
(ま、まさか、こういうことだったなんて……)
俺の性格が原因だったんじゃない。そう思うと、なんだか気が抜けてしまってしまって、俺はホッと肩をなでおろした。
「あ、あの……」
「……なに」
グスッと鼻をすする栗原君が俺を睨む。けれど、今までみたいな怖さは全然ない。むしろ、どこか弱々しくも感じた。
「あの……それ、栗原君の誤解……」
「……は?」
「た、確かに、俺、山田君のこと大好きだけど……そういう意味じゃなくて、友だちとしてってことで……」
「何今さら言い訳してんの?いっつも教室で好き好き言い合って、抱き合ってさ、そんなの信じるわけ……」
(うっ……)
それは否定のしようもないけれど、俺にはちゃんとした相手がいるわけで。そして、その相手にもそのことを咎められてしまったわけで。海に行った日のあれやこれやを思い出してしまった俺は、顔を赤くしながら、栗原君に向かってカミングアウトをした。
「だって、俺……他に、こ、こ、恋人いるからっ!」
「……は?」
「だ、だから……山田君の好きは、本当に友だちとしてなのっ」
(うぅ……恥ずかしい……)
あまりにも恥ずかしくて、俺はほっぺを押さえながらしゃがみ込む。
「は?え、ちょっと待って……え?嘘……でしょ?」
「ほ、ほんと、です」
「……嘘……めっちゃ恥ずかしいんだけど」
唖然とした栗原君も、俺の目の前にズルズルとへたり込む。そして、バツが悪そうに俺を見た。
「あー……ごめん。色々……全部、ごめん」
「え?」
「いや……濡れ衣?みたいな感じになって……。なんだ……あのアホが一人で舞い上がってただけか……」
「え?」
不思議に思って首を傾げると、栗原君は「なんでもない」と首を振り、俺に向かって頭を垂れた。
「本当にごめん。酷いこといっぱい言った」
「そんなっ。だって、そうだよね……そういうことだったなら、俺って本当に邪魔者っていうか……」
「いや……そうじゃないんだ」
「え?」
「流石に両想いの仲を邪魔する勇気はない。ムカつくけど、山田が幸せなら、それはそれで良いと思ってた……けどあの日……」
栗原君は体育座りになりながら、言いにくそうに話を続ける。
「望月君と山田、二人でデートだと思ってたのに、なんか変な赤髪いたじゃん?望月君、赤髪ともイチャイチャしてるから、なんだこいつビッチかよって思ったら、すごくイラついて……」
「び、びっち?」
「で、山田のやつ騙されてんだって思ったら、居ても立っても居られなくて……。それで、そのまま引き返せなくなって、こんな騒いで……本当ごめん」
びっち、って言葉はよく分からないけど……多分、山田君のことを守りたかっただけなんだってことは分かった。
「そっか……ふふ」
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