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番外編 白衣①
あと十分。
あと五分。
あと一分。
「じゃあ、今日の授業はここまで」
先生の言葉に、内心がっくりとうなだれる。
(終わっちゃった……)
今日一番の楽しみだった化学の授業。ただひたすらに先生のカッコいい姿を眺めていても、誰にも咎められることのない、いわば、先生を堪能し放題の夢のような時間。他の科目の授業はそのまま五十分の感覚なのに、先生の授業だけは数秒で終わってしまうような感じがする。
ここからは帰りのSHRまで先生に会えない。それが終わってしまったら、今度は先生が仕事を終えて帰ってくるまで我慢。それを寂しく思いながら号令を待っていると、その前に先生が「あ」と思い出したように声を出した。
「明日は実験な」
(実験?)
俺が心の中で呟いたのと同様に、教室内がざわめく。
「詳しい手順は明日話すけど、授業は化学室でやるから忘れないように」
そして、今度こそ号令が行われて、先生が教室から出て行った。その際に、チラッとこっちを見て微笑んでくれて、俺はキュンと胸をときめかせる。
(カッコいい……)
火照るほっぺに手を当てて余韻に浸っていると、隣の席の女の子が前の席の女の子と話し始めた。
「明日実験かぁ」
「じゃあ、高谷先生の白衣姿見れるじゃん!やばいやばい興奮してきた。イケメンの白衣とかマジ凶器」
「あんた高谷先生のこと好きだよねぇ」
「うん、超好き。てか、高谷先生のこと嫌いな人間なんていないでしょ。いたら、それただの僻みだよ」
「まあ言えてる」
(むぅ……人気者)
そんな会話を盗み聞いてしまった俺は、ちょっとだけ胸をモヤッとさせながら机に突っ伏して、先生の姿を思い浮かべた。
(白衣かぁ……)
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