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ごく、と唾を飲む。昇りつめたばかりの体は、たぶんいつもよりも素直だ。手のひらで暁くんの肩甲骨に触れると、そのまま指先で骨の先を撫でてみる。
触れている。今、僕は……暁くんに触れている。
怖い、という気持ちとせめぎ合う、愛おしさと興奮が、僕の手を動かす。ゆっくりと彼の背筋を指でたどっていき、腰を撫でてみる。
「――ん、」
「っ……!」
その瞬間、暁くんが微かに僕の耳元で吐息をこぼした。その瞬間、脳天を電流が突き抜けたような高揚感に襲われて、頭が真っ白になる。
暁くんは、僕に触れられて気持ちいいと感じてくれているのだろうか。僕の拙い指先の愛撫で、暁くんは――……
「あ、かつきくん……」
「ん……?」
もっと触れたらどうなるのだろう。暁くんをもっと気持ちよくしてあげられるだろうか。
いつも、優しい笑顔で僕を包み込んでくれる暁くん。暁くんは陽だまりのような人で、僕の中に降る冷たい雨を晴らしてくれた。そんな、僕にとっての光のようなきみは、どんな風に劣情を滴らせるのだろう。僕の手で、僕の舌で、きみは……肌を、火照らせるのだろうか。
あんなにも恐ろしいと思っていた僕の中の情欲が、じわじわと表に出てくる。だって、見てみたい。愛する人が僕に触れられて、気持ちよさそうな表情を浮かべるところを。
「――朝霧さん」
体を起こし、僕が暁くんの上に乗ると、暁くんは少しだけ驚いたような表情を浮かべた。しかし暁くんはすぐに柔らかな微笑みを浮かべて、「おいで」と甘く囁いてくれる。
暁くんを愛したい。暁くんを幸せにしてあげたい。こんなにも僕を愛してくれて、僕の体に優しくしてくれた彼を、僕だって愛したい。
恐怖でじんと頭の中が痺れるような感覚がしたけれど、僕は構わず暁くんにキスをした。そのままゆっくり唇を押し付けて、彼の口の中に舌を入れる。
「ん……」
いつもよりも僕が主導的なキス。舌を絡ませれば、頭の中が真っ白になるくらいに気持ちよかった。暁くんの頭や胸を撫でながら彼の舌を愛撫すれば、暁くんはそれに応えるように軽く腰を擦り付けてくる。
ああ、今、僕は、暁くんの体を愛している。触れている。重ねた肌は砕けることなく、溶け合うように熱を帯びている。
「はぁっ……」
「朝霧さん……すごく、気持ちいいよ……今の、気持ちいい」
「……っ」
頬を赤くして熱っぽい目で僕を見つめてくる暁くんに、目の前がちかちかとした。暁くんの表情が、幸せそうだと感じる。睫毛で陰った瞳が光を帯びてきらきらとしていて、白い歯がちらりと見える緩んだ口元が可愛らしくて。彼が、愛おしい。そして、彼への想いで滲む僕の心も、愛おしい。
「んッ……朝霧さん、」
「暁くん……」
どくんどくんと心臓は昂り、手が震える。それでも燃ゆる心臓は彼を求めている。
暁くんの首に、キスを落とした。そして、ちろりと首筋を舐めてみる。暁くんの唇から「はあっ……」と湿度の高い吐息が零れて、かあっと顔が熱くなった。暁くんはこんなに色っぽい感じ方をするのか。新しい発見に、嬉しくなる。ああ、セックスってこういうことなのか。触れあって、相手の表情にときめいて、そしてもっと触れたくなる。彼から教えてもらった熱で、憶病が少しずつ薄れてゆく。
「朝霧さん……可愛い、」
鎖骨を舐めて、胸にキスをして。まだ恐る恐るとしかできないが、少しずつ暁くんに愛撫をする僕を、彼は嬉しそうな目で見つめていた。たまに視線をあげて目が合うと、彼が目を細めるものだから、どきどきしておかしくなりそうになる。
暁くん。僕に、こうしてセックスの楽しさを教えてくれる彼が、好きでたまらない。あんなにも怖かった愛撫が、彼の肌の熱さで溶かされてゆく。彼の体に這わせた舌に、じりじりとした快楽が灯って、彼の肌を感じるたびに僕の体も熱くなる。
「暁くん……」
「……朝霧さん……色っぽい顔……」
暁くんの胸元に唇を寄せる僕を、彼は撫でてきた。する……と頬を撫でられ、唇を撫でられ……ゆっくりと、僕は舌を伸ばす。つぷ……と指を唇にいれられると、僕は彼に誘われるままに彼の指をねぶった。
「ん……ん……」
「可愛い、朝霧さん。こうしている朝霧さん、すごく綺麗ですよ。ね……もっと、いやらしいことしませんか、朝霧さん……」
「ぁ……」
綺麗、と言われて頭がぼんやりした。彼の言葉に、僕は安心しているのかもしれない。彼にならば、もっともっと触れて、もっともっと体の奥まで重なり合っても……きっと、大丈夫。そんな風に思わせてくれる。
「朝霧さん」
「あ……」
暁くんは体を起こすと、僕と向かい合わせになった。そうして、ベッドサイドに置いてあったローションを手に取る。
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