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「……っ、」
暁くんが息を呑むのがわかった。暁くんは一瞬黙り込んで、そして、ゆっくりと僕の身体を抱きしめてくる。やがて、彼は僕の頭に顔を埋めて……小さく、嗚咽をあげた。
「朝霧さん――っ……」
次第に彼の嗚咽は大きくなって。ひた、と温かいしずくが僕の背を伝う。
「……、愛しています。誰よりも、貴方のことを……愛しています」
彼の言葉の重み。それは、今まで苦しみ抜いた彼を見ていればわかること。その言葉を捧げてくれた彼を、本当に愛おしく思った。恐怖も、悲しみも。僕を縛り付けるすべて。絡みつく呪いを振り払ってでも、僕は、彼を。
言葉もなく、僕と彼は視線を交わす。視界がゆがむ。いつのまにか瞳が濡れていたと気付いたそのときには、彼と唇を重ねていた。
暁くんが僕を押し倒してくる。僕は彼を受け入れるように、彼を掻き抱いた。彼が僕の唇をむさぼるように激しく口づけてくるから、僕の身体は揺さぶられる。シーツが擦れる音がして、ベッドが軋む音がして。その音が甘ったるいものに聞こえてくる。
「朝霧さんっ――……」
「あっ……、暁く、……」
ぐ、と彼が慣らしてくれたそこに熱を感じた。
彼とひとつになれる。そう思っただけでたまらなく嬉しい。
こわい、という感情はいつのまにか消えていた。ただ、彼とひとつになりたくて仕方がなかった。
彼の背中に手を回す。ぐ、ぐ……と少しずつ入ってくる彼の熱に頭が真っ白になる。はやく、はやく――奥のほうにきて。暁くん。大好きな暁くん。
「アッ、……あぁっ……あ、……あ、!」
「はぁっ……は、……朝霧さん、……いたくない、……?」
「うん、……暁くん……」
暁のものがすべて入ってくると、全身がぴたりと重なって泣きそうになるほど気持ちよかった。動いて欲しい、という気持ちもあったけれど、ずっとこうして彼の熱を感じていたくて……僕は彼の身体をぎゅうっと抱きしめる。
「好き……暁くん、好き……」
「朝霧さん……」
暁くんが僕の顔をのぞき込んできた。彼の瞳は濡れていて、ぽた、ぽた、と涙のしずくが僕の頬に落ちてくる。その涙が愛おしくて、胸がぎゅっと痛くなって……でも、泣いてほしくなくて。彼の涙を手ですくってみると、暁くんが「朝霧さんも泣いてる」と囁いてきた。
くすくすと笑い合って、再び唇を重ねる。こんなにも胸が締め付けられるようなキスがあるのかと、噛みしめるように思った。僕がぎゅうっと彼の背を抱きしめると、ゆっくりと、彼の身体が動き出す。
「あっ……あっ……」
「朝霧さん……好き、……好きです……朝霧さん……」
「僕、っ……も、……ぁっ……あぁ……」
暁くんはやさしく、やさしく奥を突いてくる。ひとつひとつの動きが丁寧で、本当に僕の身体を労ってくれることが伝わってきた。ぐぐっと奥のほうに熱を感じると、じん……と波紋が広がるような快楽が全身に広がって、どうにかなってしまいそうになる。
ああ、溶けてしまいそうだ。
腕と、脚で、全身で彼にしがみつくようにして、彼を抱きしめた。彼は僕の耳元で息を付きながら、やさしく僕を抱く。しめっぽい吐息が耳にかかるたびに、脳がびりびりとしびれるような興奮を感じた。
「あんっ……暁くっ……あぁっ、あっ……あぁっ……」
「朝霧さん……可愛すぎて、俺、……おかしくなりそうです、……」
「はぁっ……あ、……暁くんも、……かわい、……」
「えっ……ハァ、……俺も、ですか……?」
「ふふっ……んっ――あッ……!」
「……笑うから、つい強くしちゃいました。……はぁっ……は、」
暁くんの身体が、汗ばんでいる。ちらりとこめかみに伝う汗の滴が見えて、どきどきした。色っぽくて、かっこいいって思って。今更のように彼にときめいて。もっともっと彼のことが好きになってしまって、彼を抱きしめる腕に力がこもる。目をとじて、彼の熱を全身で感じ取ると、彼のことがたまらなく好きなのだという気持ちがまぶたの裏に浮かんでくるようだった。
少しずつ彼の動きが早まってくる。身体と身体のぶつかる音、ベッドの軋み、そして暁の吐息。……音という音が僕の興奮を煽った。僕の身体がどんどん昂ってゆくと同時に、彼も上りつめていくようで。僕の声も、彼の声も、艶を帯びたように上擦ってゆく。
「あっ、あっ、あ、あ、あか、つき、くっ……も、……もう、……僕、あっ、あっ」
「俺も、……イキそ、……朝霧、さん」
「暁くっ――……あぁあッ――……!」
「朝霧さん……ッ……」
ビク、とほぼ同時にお互いの身体が震えた。僕はぎゅっと彼の身体をしめつけるように抱きしめて。彼は僕にぐっと腰を押しつけるようにして。びく、びく、と震えながら果てる。
暁くん……僕のなかでイッてる、……可愛い。
ぽつ、と感じたことがそんなことだった。彼のすべてが可愛らしく思う。愛しく思う。僕の身体にぐったりとのしかかって、ぜえぜえと息をしている彼も。全部。
「はぁっ……はぁ……朝霧さん……大好き……」
「僕も、……僕もだよ。暁くん……」
そっと、彼の頬を撫でる。
ああ、言える。この言葉を言える。
暁くんと愛し合って、その熱で臆病を溶かして。彼の微笑みは僕のなかの氷を溶かしてくれるようで。
「暁くんのこと、愛している」
暁くんが愛おしそうに僕を見つめて微笑んだ。瞳を濡らしながら、笑う。
唇を重ねる。
愛している、その響きが心地よい。
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