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 気づけば、眠りに落ちていた。  どれほどの時間が経ったのだろう。頬を撫でるような淡い明るさに誘われて、僕ははっと目を開いた。  視界の端に、窓から零れ込むやわらかな光があった。夜の深い藍に、少しずつ茜の色が溶けてゆく。静寂をほぐすように広がっていくその光景に、胸の奥が締めつけられる。 「……起きました?」  囁きが耳に触れる。振り返ると、暁くんが僕を見つめていた。  目を覚ましていたのか。僕の寝顔を眺めていたのだと思うと、頬が熱を帯びる。 「……見てたの?」 「はい。……ずっと」  悪びれもせず、彼は微笑む。その柔らかさに、かえって息苦しくなってしまう。  僕は照れを誤魔化すように視線を外し、窓の方へ目をやった。暁くんも同じように視線を向け、ふたり並んで、ゆるやかにひらけていく空を見つめる。  東の端がかすかに輝き、夜がほどけていく。青と朱とが混じりあい、世界を新しい色で塗りかえていく。その美しさに、思わず胸の奥がじんと痛む。何もしていないのに、涙が溢れそうになった。 「……そういえば」  ぽつりと、声がもれる。 「暁くんの名前……夜明けって意味だよね」  言った瞬間、胸の奥で何かがほどけた気がした。暁くんはきょとんとした顔をしたが、すぐに静かに笑う。 「……そうですね」  そして、少し間を置いて、まるで祈りのように尋ねてくる。 「……朝霧さん。夜は……明けましたか?」  問いかけられた途端、涙が一粒、頬をつたった。  長い夜を歩いてきた。自分を縛るものから逃げて、傷つけて、恐れて――それでも彼の手に導かれて、ここまで来た。 「……うん」  声が震えてしまう。けれど、その一言には、確かな答えが込められていた。  光が、窓の外から差し込んでくる。僕は泣きながら微笑んで、暁くんに顔を寄せた。唇が触れあった瞬間、夜と朝とが完全に溶けあうように思えた。  夜は明けた。  僕たちの夜は、ようやく。

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