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Epilog

――アムルーズって、どういう意味?  ふいに耳の奥で、あの声がよみがえる。  初めてこの花屋を訪れた日のこと。古い看板を見上げた僕に、彼女はあっけらかんと笑いながら答えてくれた。  ――「恋人」って意味!  あのときの僕は、きっと苦笑していただろう。まっすぐな笑顔に戸惑いながらも、心のどこかでその言葉を嬉しく思っていた。抱きしめたくなる衝動を、必死に抑えながら。  ――ねえ、れいくん。  あの頃の僕は信じていた。この花屋で彼女と並び、看板の意味を誰かに伝える日が来るのだと。  けれど今、その夢を果たすことはできない。看板の文字は少し色褪せ、当時の面影だけを静かに刻んでいる。  ……でも。 「――アムルーズって、どういう意味?」  店先で、青年が尋ねる。  春の光を背負った暁くんの顔に、少し大人びた影がさしていた。  僕は、そっと微笑んで答える。 「恋人、って意味だよ」  その瞬間、彼はふわりと笑った。花が咲くように、夜明けが訪れるように。  かつての記憶が胸に疼くけれど、不思議と涙は出なかった。今の僕には、この名を笑顔で口にできる理由がある。  ――暁くん。  きみと出会って、僕はもう一度、恋を知った。  きみと過ごすこの場所が、再び「アムルーズ」であると胸を張って言える。  だから今、この古びた看板はもう、思い出を閉じ込める箱ではない。  僕たちの恋を見守ってくれる、優しい言葉。

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