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第4話
「知矢、オレはさ」
テーブルで向かい合って座っていた典夫が、心持ち知矢のほうへ身を乗り出してひそやかに囁いた。
「オレはおまえしか見えないよ。おまえしか好きになれない」
「お兄ちゃん……」
「だから、そんな不安そうな顔するな」
「うん……」
知矢の胸が切なく疼いた。
その夜、知矢がお風呂から出て、自室でくつろいでいると、ドアがノックされた。
「はーい」
返事をすると、ドアが開けられ、典夫が部屋へ入ってきた。
知矢のあと続けてお風呂に入ったようで、まだ髪も濡れたままだ。
典夫はベッドに座る知矢の隣に腰かけると、大きな手で髪をやさしく撫でてくれた。
「まだちょっと不安顔だな? 知矢。オレはこんなにおまえだけが好きなのに。……信じられない? オレのこと」
切れ長の目で真っ直ぐに知矢の瞳をのぞき込みながら、言葉を紡ぐ兄。
「そんなことないっ……」
知矢は大きくかぶりを振った。
「お兄ちゃんのこと信じてるよ……でも、それでも不安になっちゃうんだ……」
ふわりと典夫が知矢を抱きしめてくれる。
「うん……分かるよ、知矢。本当はオレも同じだから」
「えっ……?」
「だっておまえは自分の魅力にまったく自覚がないし。あのな、はっきり言うけど、今日あった女の子たちより、オレが知る誰より、おまえのほうが断然かわいいし、綺麗だよ」
「それはお兄ちゃんのひいき目すぎるよ」
知矢が否定すると、典夫は大げさに溜息をついた。
「ほら、やっぱり自分の魅力にまったく気づいてない……その無防備さがオレには不安なんだ。女にも男にもちょっかい出されそうで」
「そんなこと……」
あるわけないと続けようとしたが、兄の唇で言葉は封じられてしまった。
「んっ……ん……」
たっぷり深いキスを交わしてから、典夫が知矢の耳元で熱く囁く。
「おまえを宝箱に入れて、誰にも見せたくない……知矢……」
「お兄ちゃん……」
兄が知矢を抱きしめたままベッドに倒れ込む。
典夫は腕の中の知矢に言った。
「今夜はおまえが自分からオレを受け入れて……? 知矢」
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