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第1話
ドサッと、買い物袋を床に落とした。
自分も、床に倒れ込みたいと思いながら、なんとか足を踏ん張る。
「お前、重てぇよ…」
抱っこ紐の中で眠る自分の子供、晴麗 を見て、煩わしく思う。
靴を脱いで部屋に上がり、子供用の布団に晴麗を下ろす。途端、喚き出してイライラした。
何で俺はこんなに頑張ってんのに、お前はそれを否定するように泣くの。
「…お前なんて、消えればいいのに。…そうすれば、俺は楽になれるのに」
1度深く息を吐いて、目を閉じる。
……今の言葉は駄目だった。晴麗は何も悪くない。泣くのが仕事なんだって、こいつが生まれた時に看護師から教わった。一緒に教わった筈の嫁はもう居ない。
「…テメェの子供のくせに何で手放せるんだよ…」
晴麗を抱っこして、背中をぽんぽんと撫でる。歩いてないとまた泣くから、狭い部屋の中を歩き回った。
暫くすると泣き止んで眠った晴麗。その寝顔は素直に、可愛いと思う。ぷにぷにした頬に触ると、むにゃむにゃと口を動かして…天使って、晴麗の事だったんだ。
「もうちょっとで婆ちゃんが来るからな。」
今度こそ、起こさないようにそっと布団に寝かせ、買い物袋の中から材料を取り出し、晩飯を作る。
母さんが来たら仕事に行かないと。携帯に届いたメールを見て、もう1度時間を確認した。
晩飯のカレーを作り終え、それとほぼ同時に母さんがやって来る。
「今日も夜勤なの?大変ね」
何も知らない母さんは、苦笑を零し、そう言った。
「…別に。朝には帰ってくるよ。いつもごめん。」
「いいのよ。気を付けて」
嫁が逃げた時、母さんは激怒してた。元々結婚に対して反対だったってこともある。まあ、そりゃあそうだ。俺も嫁も高卒で、俺に関しては就職先が見つからず、嫁もパートとしてスーパーで働いているだけだったから。
準備をして、母さんと晴麗に「行ってくる」と伝え家を出た。
向かうのはホテル街。
「───ユイ」
「あ、ごめん。遅かった…?」
「いいや、俺が早く来ただけだ、気にするな。」
びっしりとスーツを着た、強面の男性。彼は俺と高校の頃の同級生の菊池 哉太 。菊池の親は極道で、菊池自身も今や極道の上に立つ人として日々を過ごしているらしい。
高校を卒業してからはたまに連絡を取っていた程度だったけど、今じゃ俺は菊池がいないと生活ができない。
「子供は?」
「母さんが見てくれてる。」
「そうか。」
菊池に誘導されながら、2人でホテルに入った。これから始まる2人の時間は、俺が唯一金を生み出せる時間。
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