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第31話 告白編26

「雪ちゃん、独り占め♪」 「今だけだからね」      ぎゅうっと俺の腰に抱きついてお腹に頭を擦り寄せてくる春樹の髪をすくように指を入れて、その頭を撫でる。  すると、そのままの状態で春樹が甘えたような声を出す。 「雪ちゃ~ん、今日は俺の部屋で寝なよ。一緒に寝よ?」      いつもなら即答で拒否するところだが、さすがに今の状況で自分の部屋に一人でいるのは怖い。  かといって、誰かを呼んだらまたさっきみたいに写真に撮られる可能性がある。 「うん……そうしよっかな」 「えっ、マジで?」      俺が受け入れると思っていなかったのか、春樹が驚いたように見上げてきた。  そんな春樹を見下ろしながら俺は言う。 「なに……冗談だったの?」      すると、春樹がすごい勢いで首を左右に振って慌てて答えた。 「ううん! 本気、本気! やったー、超嬉しい♪」      なんか春樹に尻尾があったとしたら、今、思いっきり振ってそう。  そう考えたら急に春樹が可愛く思えて、俺はその頭を抱き抱えるように撫でる。 「よーし、今夜は春樹くんがみんなのために気合い入れて夕飯作るぞー!」      一頻り、俺に撫でられた後、春樹は元気よく立ち上がるとそう宣言した。  そして、俺に向かって笑顔で言う。 「雪ちゃんも一緒に手伝ってくれるよね」      そう言って手を差し出されたら断るわけにはいかない。  俺は少し恥ずかしかったが、その手を取り春樹の夕飯作りを手伝うことにした。  春樹の明るい雰囲気に癒されて、さっきまでの恐怖も忘れて二人で和やかに夕飯の準備をする。  ちょうど料理を盛り付け終わった頃、いつもよりも早く他の三人も帰ってきた。 「ただいま~」 「雪乃くん、大丈夫?」 「お帰り。春樹と一緒だったから大丈夫だよ」      リビングに入るなり心配そうに駆け寄ってきた涼介に、俺はテーブルにお皿を置きながら答えた。  それを聞いて、キッチンの方から春樹もみんなに声をかける。 「夕飯は俺と雪ちゃんが用意しといたから♪」 「だから、みんなも服着替えてきなよ」 「昼間の件に関しては、食べながら話しますかね」      一番最後にリビングに入ってきたオキのその言葉で、三人は着替えるためにそれぞれ自分の部屋へと入っていった。  その間に春樹は最後の仕上げで、俺は出来上がった料理をテーブルへと並べていく。  全てを並べ終えた頃には着替えを終えた三人も集まってきていて、みんなで食卓を囲む。 「いただきます」  陽愛くんの号令を機に、みんなもそれぞれ挨拶しておかずへと箸を伸ばす。  最初は他愛もない話をしていた俺達だったが、しばらくすると春樹が真剣なトーンで話を切り出した。 「昼間の件だけど……俺達が帰ってから何かわかった?」      一瞬、張り詰めた空気が流れたが、それをはらうかのように涼介が答える。 「あの封筒が置かれたのは四限目の最中。人も少なくて誰が置いたのかを目撃した人もいない」 「簡易的に調べましたけど、写真や封筒からは指紋らしきものは取れませんでした。写真に関しても合成とかではないですね……まあ、それについては二人に聞いた方が早いかな」      涼介に続いて言ったオキの言葉で、みんなの視線が俺と陽愛くんへと集中した。  居たたまれずに俯いてしまった俺の代わりに陽愛くんが口を開く。 「写っていた内容は事実。昨日の僕と雪くんで間違いない」      その瞬間、食卓の時間が止まったかのような感覚になったが、すぐに陽愛くんが言葉を続けた。 「でも、結局、あれ以上は何も進展ないけどね」      途端に、緊張の糸が切れたのがあからさまにわかったし、それを裏付けるかのように春樹が安堵のため息とともに大声を出した。 「良かった~。もしかしたら雪ちゃんが山ちゃんを選んだのかなって心配だったんだよね」 「そうじゃないみたいだな」      さらには涼介まで安心した様子をみせる。  おい、みんなが気にしてたのってそのこと?  俺が呆れて箸の手を止めてしまうと、その取ろうとしていたおかずをオキの箸で取られてしまった。  そのまま、おかずを口へと運びながらオキが言う。 「内容に関して解決したとなると、残る問題は写真に写っているのが雪ちゃんの部屋の中ってことですよね」 「そう! それが大問題なんだよ」  やっと本題に辿り着いたので、俺はつい大きな声を出してしまった。  すると、何かを思い出しているかのように陽愛くんがのんびりと聞いてきた。 「そういえば、あのクマの人形なに? 昨日の朝まではなかったでしょ」 「クマ?」 「うん、こんくらいのモコモコしたやつ。首に赤いリボンしてた」  涼介に聞き返され、陽愛くんは両手でサイズを作りながら俺の部屋のテディベアを説明する。 「あっ、そういえばさっきもあったかも! 雪ちゃん、そんなメルヘンな趣味あったの?」 「違うよ、貰ったの!」      春樹に意外そうに聞かれ、俺は即答で否定した。  これだけは誤解のないようにしておかないと、俺の男としての沽券に関わる問題だ。  それなのに、他の四人にとっては違うことが気になったらしく、いきなり鋭い目が俺へと集中する。 「貰ったって……誰に!」      半ばキレ気味に四人が揃って聞いてくるので、俺はその勢いに気圧されながら小さく答えた。 「俺もわからないんだよ。女子生徒が俺に渡してくれって用務員さんに頼んだらしくって……」 「…………」 「名前を聞き忘れたみたいで、中にも書いてなかったから、返すわけにもいかないし……」      何で俺がこんな説明してるんだろう。  そう疑問に思いつつも、何も言わずに四人が俺を睨んでくるので、ついつい言い訳みたいなことをしてしまう。 「とりあえず、その人形に関しては食べ終わったら確認させてくださいね」 「……はい」      オキからそう言われ、俺はまるで生徒になったかのように返事をしてしまった。  俺、何も悪いことしてないのに、なんでみんなから責められてる感じがするんだ?  いまいち納得できないまま、俺は食事の箸を進めていった。

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