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第32話 告白編27

 食事を終えて、食後の一息をついてから俺はみんなを自室へと招きいれた。 「おっ邪魔しまーす♪」    俺がドアを開けるなり、春樹がそう言って真っ先に部屋へと入っていく。  みんなの後から最後に部屋へと入ると、そこは朝と全く変わりのない室内だった。  正確には、昨日の夜から変化はないので今もまだ監視されているかもしれない。  そう思って、ちょっと不安になった瞬間、場違いな春樹の明るい声に話しかけられた。 「うわぁ、雪ちゃん、この抱き枕どこで買ったの? 超触り心地いい♪」    言いながら春樹がベッドの方から手招きするので、俺は戸惑いながらも春樹へと近づき、お気に入りの抱き枕の説明をする。  そんな俺の説明を春樹は興味津々と言った様子で聞いてくれて、その間に他の三人は俺の部屋の中を目視で確認しているようだった。  いつもだったら、見当違いな反応をする春樹に誰かしらがツッコミを入れるはずなのに、それをしないということは春樹がわざと俺の気を紛らわそうとしてくれているのに、みんなも気づいているんだろう。  ……なんか俺ってば、みんなに大事にされてるよな。  つい、そんなことを思ってしまうと、涼介が遠慮気味に聞いてきた。 「さっき言ってたクマって、このテディベアのこと?」    その問いに俺が頷くと、オキも涼介と一緒にその人形をじーっと見つめている。  そんな二人に、俺はラッピング袋の中から添えられていたメッセージカードを出して渡す。 「……なんか風水みたいだな」  それを見た涼介が、初めてそれを見た時の俺と同じような感想を述べた。 「でも、印刷された文字ってのが怪しいですね」    オキがカードを見ながら言うと、それを聞いていた春樹が不思議そうに聞く。 「普通、女子高生が好きな相手にプレゼントする時って、可愛らしく手書きで書くもんだよね? イラスト付きとかでさ」 「確かに、この字体じゃときめき度は半減だな」    春樹と涼介がカード、オキがテディベアへと意識を向けている中、さっきからずっと黙っていた陽愛くんが、俺の机の方へと移動した。 「なぁ、このお茶どうしたの? 雪くん」    そう聞かれて陽愛くんの指差す方へと目をやると、そこには昨日貰った飲みかけのペットボトルのお茶があった。 「あ、冷蔵庫にしまうの忘れてた。それ、昨日貰ったの。その人形渡された時に」 「えっ、お茶もプレゼントされたの?」    驚いたように涼介に聞かれて、俺は慌てて説明を追加する。 「違うよ、そのお茶は用務員さんから! 間違えて買っちゃったから、どうぞって」    今の涼介の反応だと、なんで知らない人からの貰い物を口にするんだって言いたげだったから、あくまでもお茶は用務員さんに貰ったから飲んだのだと伝える。  俺だって、そこまで子供じゃないんだから。 「……雪ちゃん、あの用務員と仲良いですよね?」 「うん。よく自販機で一緒になるから話したり、お茶飲んだりね」    オキからの問いに俺が素直にそう答えると、何だか陽愛くんとオキが険しい表情をしている。  そして、陽愛くんは大きくため息を吐いて、春樹とは反対側の俺の横へと腰を下ろした。 「雪くん……しっかりしてそうに見えて、結構危なっかしいからなぁ」 「え……?」    陽愛くんはいきなり何を言い出すんだと思ってみんなへと視線を向けると、その陽愛くんの意見に共感しているのか他の三人も大きく頷いていた。  一人だけ取り残され困惑していると、陽愛くんが俺の頭を撫でながら言った。 「とりあえず、あのクマとカード……それから、お茶を明日調べさせてね」    何でお茶まで? という俺からの問いには、オキが『一応、昨日新たに部屋に増えた物だから』と説明してくれたので、とりあえず承諾した。  すると、一通りの調査が終わったのを感じた春樹が俺に抱きついて言った。 「じゃあ、そろそろお風呂入って寝る準備しよっか。雪ちゃん、抱き枕持ってくる?」 「……それ、どういうことだよ?」    春樹の言葉に何かを感じ取った涼介が少し不機嫌そうに聞くと、対称的に春樹は嬉しそうに答える。 「え? 今夜は雪ちゃん、俺の部屋で一緒に寝るの。約束したもんね♪」 「う……うん」 「はあ? 何、それ!」    春樹の勢いに圧倒されつつも俺が返事をした瞬間、陽愛くん、オキ、涼介の三人が見事に声を揃えて怒鳴ってきた。  おお、陽愛くんまでこんな大声を出すとは珍しい。  なんて感心している間にも四人は言い合いを始めてしまった。 「何、勝手に抜け駆けしてんだよ」 「だって、この部屋に雪ちゃん一人でいさせたら可哀相でしょ」 「だからって、春ちゃんと寝る必要はないよね?」 「だいたい、昼間だって副担任の俺に後を押し付けて雪乃くんと二人で帰ったくせに」 「え~、だってそれはオキが……!」    ああ~、どうしよう。本当は俺が止めた方がいいんだろうけど、こうなった四人を俺一人で止められる自信がない。  下手に口出すと、今度は矛先がこっちに向きかねないからなぁ。  今までの経験上で、なんとなく先の展開が予想できた俺は申し訳ないがその場を逃げ出すことにした。 「俺、先に風呂入ってくるから!」    それだけ告げると、俺はとりあえずの着替えなどの荷物一式を手にして自分の部屋から走り去ってしまった。  そのまま一階の風呂場に向かうと、二階からはみんなの俺を呼ぶ声が聞こえたが気づかない振りをする。  あの状態で俺にどうしろっていうんだ。  一人、安息の時間を過ごそうと風呂場に来た俺だったが、結局、その後にオキと春樹の風呂場襲撃に合い、騒がしい入浴をすることになった。  若干の疲れを残しつつリビングに戻ると、そこは陽愛くんと涼介によってテーブルなどが片付けられていて、見事に布団が敷き詰められていた。 「ハルだけはずるいからね。みんな、ここで寝ようって」    目の前の光景に唖然としていた俺に涼介がそう説明してきたが……。 「これ……狭くね?」    だって、どう見ても布団が足りてない。まあ、ここに五人分は敷けないだろうけど。  でも、その問いには陽愛くんが笑顔で答えてくれた。 「みんなで引っ付いて寝れば大丈夫でしょ」 「……」    この状況に、何の疑問ももたない陽愛くんにそう言われてしまうと、俺にはそれ以上言うことが出来ない。  ……寝相悪くて蹴っても知らないからな。  そう心の中で文句を言いながら、俺はその日の夜、リビングに敷いた布団でみんなに囲まれながら眠りについたのだった。

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