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第36話 告白編31

 そんな俺達の様子を見ていた用務員が、涼介に腕を押さえられ少し苦しそうに言った。 「なんで……お前らがここに」 「そりゃあ、あんたの正体を押さえるためにだよ……ストーカーさん」    そう言うと、オキは今までに見つかった俺の隠し撮り写真を机の上へと放り投げた。 「これ、あんただろ。いくら不審者を探したって見つかんないわけだよ。あんたなら、授業中に校内をうろついていたって何の違和感もない」 「…………」    口を閉じた用務員に春樹が追求を続ける。 「一時期、写真が出回らなくなったのは雪ちゃんが家を引っ越したからでしょ。だけど、今の家を見つけ出して、また盗撮を始めた……」 「しかも、今度はエスカレートしてな」    言いながら涼介が腕に力を入れたのか、用務員の顔が僅かに歪む。 「だけど、決定的な証拠がなかったからあんたを呼び出したんだよ。雪くんに一芝居うってもらってな」 「途中で確信したからね。コーヒーだって飲んだ振りしただけ。そこに入れたんだろ、睡眠薬」    陽愛くんの言葉に頷いてから、俺が自分のコーヒーカップを指差してそう言うと、用務員の表情が微妙に驚いた様子を見せた。  それを見たオキが得意気に説明をしてやる。 「悪いけど、数日前にあんたが雪ちゃんにあげたお茶の中身も調べさせてもらった。即効性の睡眠薬……さっき入れたのも、それだろ?」 「ちなみに、入れた瞬間はバッチリ、山ちゃんが押さえたからね♪」 「任せとけ」    自分のことのように自慢げに言う春樹に、陽愛くんはデジカメを片手に答えた。 「お前は、雪乃くんに好意をもって盗撮を始めた。それから、雪乃くんが引っ越したことを知ったお前は家まで後をつけたり、生徒に貰ったって嘘ついて人形を渡して、部屋を盗撮したりしてストーカー行為に変化した。そして、今度は睡眠薬まで飲ませて……雪乃くんに何しようとしていたんだかな」    全てをわかっていて、わざとそう問いただす涼介は顔が整い過ぎているだけにとても恐い。  だが、さすがに俺達よりも長く世間を経験している用務員は、怯むことなく言い返してきた。 「ちょっと待て。確かに……睡眠薬は俺がやった。でもな、盗撮だのストーカーだの……そんなの俺は知らない」 「でも、一連の写真を見る限り、最初の盗撮犯はクマの送り主と同一犯のはずなんだよなぁ~」 「だったら、その送り主の生徒が犯人なんだろ。だいたい、俺が生徒から貰ったってのが、何で嘘だってわかる?」    のんびりと告げた陽愛くんに、用務員はどこか馬鹿にしたように鼻で笑って言い捨てた。  この期に及んで、まだ認めようとしない用務員を殴りつけたい気持ちがこみ上げてきたが、それを止めるかのように春樹の明るい声がした。 「あれ~……でも、それだとちょっとおかしいよね? オキ」    春樹に話を振られて、オキがニヤリと笑って答える。 「あんたはさっき、クマの送り主が自分だって自白してんだよ」 「……なんだと?」  オキからの突然の発言に、用務員は訝しげに聞き返してきた。 「俺との会話の中で言っただろ? 『あんな暴力を振るうような相手』とか『あいつら』って。俺は、それであんたが犯人だって確信したんだ」 「雪くんは一言も、相手が複数だとか暴力を受けたなんて言ってないもんな」    我慢出来ずに俺が口を出すと、陽愛くんが優しく俺の頭をポンっと叩き援護してくれる。 「そう、そのことを知っているのはクマのリボンに仕込まれていたこのカメラで、あの部屋の中を見ていた犯人だけ」    言いながらオキはクマから抜き取った小型カメラを白衣のポケットから取り出した。 「お前はまんまと俺達の仕組んだ罠に嵌ったんだ」 「俺達が雪ちゃんに怪我なんてさせるわけないじゃん。ケンカしたのだって、雪ちゃんが左手を庇ってたのだってぜ~んぶ演技だもんね」 「結構、大変でしたよ~。油断させるために、回線を繋いで雪ちゃんが一人で部屋で寝ている映像をそっちのカメラに送る作業」 「実際には、昨夜もリビングでみんな一緒に寝たもんな」 「陽愛くん!」    余計な情報まで教える陽愛くんを俺が注意すると、これ以上白を切るのは無理だと思ったのか用務員はいきなり開き直った。 「はっ、そうだよ、俺が全部やったんだ。お前は無防備だったからな、もっと簡単にいくかと思ったが」    今までの姿が嘘だったかのように、欲望を露わにした視線を向けられ、俺は睨み返した。 「ほら、その媚びるような顔だよ。その綺麗な顔が男を惑わすって気づいてないのか? 抱いてくれって言ってるようなもんだろ」    あまりの言い掛かりに、怒りを通り越して嫌悪感が込み上げてくる。  咄嗟に目の前の春樹の腕を縋るように掴んでしまうと、それに気づいた春樹は俺を安心させるためか抱き締める腕の力を強くした。 「いい加減にしろ!」    用務員の言葉を遮るように涼介が怒鳴ると、用務員は笑いながら言う。 「結局、お前らも俺と同じでこいつをどうにかしたいんだろ? 演技なんて言ってるけど、そんなレベルじゃない写真をこっちは色々と押さえてあるんだ」    その言葉に俺の身体が強張ったのがわかった。

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