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第61話 学園祭編9
屋上のドアを開けると色とりどりの花火が大きく咲き乱れていた。
「やっぱ、スゴ~い♪ ね? 雪ちゃん」
「うん……」
俺を下へと下ろし、花火と同じくらいの満開の笑顔で振り返った春樹に俺は花火を見上げながら答える。
確かに窓から見た時とは違う感動がある。
「雪乃くん、ここに座りなよ。少しでも靴脱いだ方が楽でしょ」
そう言って、涼介に誘導されちょっと出っ張った所に座ると焼そばと缶ビールを手渡される。
「まだ仕事中だけど、少しだけね」
言いながら涼介は自分も手にした缶ビールを俺の缶と軽くぶつけて乾杯した。
目の前の誘惑に負け、花火を見ながら焼きそばを食べていると、オキが俺の横へと座ってくる。
そして、手にしていたたこ焼きの1つに楊枝を突き刺す。
「はい、雪ちゃん。あ~んして」
「えっ?」
笑顔でたこ焼きを目の前に差し出され、オキのやりたいことを理解する。
なんか……必要以上に恥ずかしいんだけど、こんな笑顔でオキに可愛くお願いされると断れないというかなんというか……純粋に、何も企んでいない可愛いオキが貴重なせいもあるかもしれない。
「……んっ」
恥ずかしさを我慢して、俺がたこ焼きを頬張るとオキがニコニコと俺を見つめてくる。
「おいしい?」
そう聞かれ、俺はモゴモゴと口を動かしながら頷いた。
すると、フェンスの方から春樹と涼介がオキを呼ぶ。
「……ったく、何だよ。雪ちゃん、このたこ焼きも食べていいよ」
そう言うと、オキは残りのたこ焼きを俺の横へと置いて素直に春樹達のもとへと行く。
「なんか雪くん……リスみたいな食べ方だなぁ」
オキと入れ違いに陽愛くんが笑いながらそう言って近づいてきた。
そして、たこ焼きを挟んで、陽愛くんも腰をおろす。
「口にソースまでついてる」
俺が食べているのを眺めていた陽愛くんが、いきなり俺の口を自分の指で拭ったかと思うと、そのままその指を舐めた。
なんか……陽愛くんにしてはエロいんですけど。
「僕も貰っていい?」
そう聞かれて、照れたのを隠すために顔を反らしたまま頷く。
だが、いつまでたっても陽愛くんがたこ焼きを食べる気配がない。
不思議に思って陽愛くんの方へと視線を向けると、陽愛くんが口を開けて俺の方を見ていた。
「雪くんが食べさせて」
それって、さっきオキがやったことを俺がするってこと?
「ほら、早く」
恥ずかしくて躊躇っていると陽愛くんに催促されてしまった。
されるのも照れるけど、自分からするとなると余計に恥ずかしいな。
でも、やらないと陽愛くん、このままでいるつもりだ。
よし、動物に餌付けすると思えば!
「ひ、陽愛くん……はい」
俺は楊枝でたこ焼きを一つ刺すと、落とさないように陽愛くんの目の前へと持って行く。
「んっ」
あーん、と口を開けて陽愛くんがたこ焼きを口に入れる姿が……か、可愛い。
こんな可愛い相手に、いつも自分が抱かれる側なのかと思うと急に恥ずかしくなってくる。
そんな恥ずかしさを誤魔化すように、俺はさっきの美術室でのことを、隣でたこ焼きを頬張っている陽愛くんへと聞いてみた。
「そう言えば陽愛くん、さっき何を言いかけてたの?」
みんなが入って来ちゃって最後まで聞けていなかった。
陽愛くんも変な意地はって誤魔化しちゃうしさ。
「ん~……」
たこ焼きをモゴモゴとしながら陽愛くんが何かを考えていたかと思うと、口の中を空にして口を開いた。
「そのうちね。近いうちに改めて言うよ」
「え~」
中途半端な言い回しが気になってしょうがない。
俺が諦めずに詰め寄ろうとすると、フェンスの方からまたもや、みんなが声をかけてくる。
「ほらほら、雪ちゃん。山ちゃ~ん!」
「花火もそろそろラストですよ」
その言葉に上を見上げるとラストの打ち上げ花火前の乱発花火が派手に上がっていた。
「二人もこっちに来なよ」
涼介の声に俺と陽愛くんもみんなのもとへと集まる。
全員で空を見上げながら、誰一人言葉を発せずに無言で次々にあがる花火を見つめる。
「…………」
今回の学園祭を通して、俺達の関係はだいぶ変わってしまった。
でも、今この五人でいる空間は前と変わらずにとても心地よく大切なもの。
それは、これからもずっと続いていくのだろう。
もしかすると、みんな同じことを考えているのかもしれない。
来年も再来年も……これからずっと、この場所から五人で毎年この花火を眺めたい。
そう思った瞬間、ラストを告げる特大の五色の花火が、俺達の頭上に大きく花開いたのだった。
~ E N D ……? ~
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