2 / 61
第2話 斎藤涼介先生の朝
それと同じ頃、藤堂先生と同期の誠陵學校の家庭科担当の斎藤涼介 先生・二十三歳は、自宅のベッドの中にいた。
朝にめっぽう弱い彼は、一応目を覚ましてはみたものの身体を起こすまでにはいかずベッドの中でダラダラとしていた。
もっとも、家庭科の教師なだけありすでに朝食の下準備は昨夜のうちに終えている。
そんな家庭的な一面を持っている斎藤先生だが、こちらも藤堂先生と同じくなかなかのイケメンで、まだ夏の暑さを多少残すからかパジャマ代わりのタンクトップから覗く身体はとても家庭科の教師とは思えないくらいに立派に鍛えられている。
どこか色気すら感じさせる気怠げな動きで斎藤先生は前髪をかき上げると、枕元へと置いてある時計へと視線を移す。
どうせ、もうすぐ自分でセットしておいた最終的なタイムリミットのアラームがなるはずだ。
そう考えて、残り僅かの睡眠をとろうと斎藤先生が完全に寝の体勢に入ろうとすると、それを邪魔するかのように自宅の電話が鳴る。
(こんな時間に誰だよ……。まあ、留守電に切り替わるからいいか)
ぼんやりと頭でそんなことを考えつつ、斎藤先生は完全にその電話を無視することに決め込み、頭ごと布団へと潜り込んだ。
そして、予定通り電話が留守電案内を流し始めたかと思うと……。
『会議室に集合せよ!』
「……っ!」
まだ録音の段階にもなっていないというのに、電話の相手は名前も名乗らずそれだけ言うと電話を切ってしまった。
「今の声って……近藤主任だよな」
聞き覚えのある大先輩の声に、さすがに斎藤先生も起きずにはいられない。
先に携帯にかけるわけでもなく、メッセージを残すつもりも全くないあたり、最初から斎藤先生が自宅でこれを聞いているとわかっているのだろう。
「今日って金曜日じゃね?……」
週末なのに、なぜ会議室に呼び出されるのか不思議に思いつつも斎藤先生は学校へと行く準備をするためにベッドから抜け出す。
「どうせなら、近藤主任じゃなくて好きな相手の声でモーニングコールがいいんだけどなぁ」
斎藤先生は、もっともな希望を呟きながら大きく欠伸をすると、そのまま時計の横に立てかけてある見開きタイプの写真立てを手に取った。
そこには左右に写真が入っていて、まだ小学生くらいの幼い少年二人が笑顔で仲良くくっついている物と、今よりも僅かに若い斎藤先生がスーツ姿の男性に肩を組まれて、少し恥ずかしそうにしている物がそれぞれ収められていた。
どちらもよく見ると、それぞれの面影が残っているので左右の写真は同一人物達なのだろう。
「おはよう……雪ちゃん」
斎藤先生は青年の方の写真へとそう呟くと、そっとそこへと唇をあてる。
そして、タオルを手にシャワールームへと消えて行ったが、その表情はさっきまでの色気が嘘かのように優しく、とても幼いものだった。
ともだちにシェアしよう!