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第3話 沖田秀一先生の朝

 斎藤先生がやっと起き出した一方で、こちらはすでに自宅のパソコンを立ち上げている青年がいた。  長めの前髪が邪魔にならないようにゴムで結わき、パソコンを見つめているのは藤堂先生や斎藤先生と同期の誠陵學校・科学担当の沖田秀一(オキタシュウイチ)先生、二十三歳だ。  邪魔になるなら切ればいいと思うのだが、無造作に結わってあるその前髪は年齢の割にはとても可愛らしく、どこか幼さを残す沖田先生の顔に合っている。  彼の職場が年下の学生ばかりの学校という場でなければ、きっと年上の女性から可愛がられているタイプだろう。  そんな彼は今、別にパソコンを使って熱心に仕事をしているわけではなく、コンビニで買った朝食のメロンパンを食べながら、熱心に趣味のネットゲームをしているのだった。  今日は金曜日で週末なため、今夜は遅くまで仲間内で集まることに(ネットの中でだが)なりそうな予感がする。  そのために今から一人でレベルをあげて準備をしているのだった。  パソコンでのネットゲームは不特定多数の人とチャットを通して交流がもてる。  普段の沖田先生ならネットゲームの利点を最大限に使い楽しむのだが、一応、今は出勤前の僅かな時間しかないため、沖田先生は一人黙々とレベルをあげていた。 「……ん?」  すると、レベル上げをしている沖田先生のキャラに、画面上で他のプレイヤーが近づいて来るのに気づく。  ここで話しかけられたら、ちょっと面倒だなぁ……と、沖田先生が少し困っていると、やっぱり相手が話しかけてきた(あくまでチャットである)。 『会議室に集合せよ!』 (…………は?)  一瞬、このゲームの中で会議室どこだ? と思った沖田先生だったが、相手が再度その言葉を繰り返すと、頭の中に一人の人物が出てきた。 「もしかして……近藤先生?」      その沖田先生の実際の呟きが聞こえたわけはないはずだが、まるで狙ったかのように目の前のプレイヤーが姿を消した。  きっとゲーム内からログアウトしたのだろう。 「まさか……盗撮とかされてないよね?」      あまりのタイミングの良さに、沖田先生が冗談混じりに呟くが、それに返ってくる答えはない。  気持ちを切り替えるために大きく伸びをすると、沖田先生はパソコンの電源を落とし前髪を結わっていたゴムを外した。  その途端、さっきまで見えていた沖田先生の可愛らしい顔の目元辺りまでが前髪で影になってしまい、急に地味な印象が強くなる。    そこに追い打ちをかけるかのように、沖田先生は横に置いてあった黒縁眼鏡をかける。今さらながらにかけたその眼鏡には当然、度なんて入っていない。  完全な変装用のアイテムだがその効果は抜群で、これで表を歩いたとして、長めの黒い前髪に冴えない黒縁眼鏡で隠された沖田先生の素顔を気にする者はいないだろう。 「ワイシャツに着替えないとなぁ」      そう言いながら今度は携帯ゲーム機の充電を始め、イスから立ち上がった沖田先生は、どこか妖艶な笑みを浮かべていた。

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