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第4話 山南陽愛先生の朝

 みんながそれぞれ、ワイシャツの用意をしている中、そんなことには全く気づかずにラフな私服姿でバスに乗っている青年がいる。  何かと誠陵學校で人気の高いイケメン教師の中で一番年上の二十六歳で先輩……そして唯一、車の免許を持っていない美術担当の山南陽愛(ヤマナミヒヨリ)先生だ。  今日もいつものようにバスの後部座席に、駅から学校まで早めに学校に向かう生徒に混じって座っている。  ただ、いつもと一つだけ違うとすれば山南先生が寝ていないということだった。  普段からどこか眠そうな雰囲気のある山南先生は、朝のバスの中で心地好い揺れに身体を任せて眠っている姿がよく目撃されている。  それどころか学校の最寄りのバス停に着いてしまい生徒に起こしてもらうというのも珍しくなかった。  そんな山南先生が寝ていないのには理由がある。  せっかくの週末の休みを利用して、趣味の一つである登山に行こうかと考えているのだ。  山南先生はどちらかというと小柄なタイプで、よく美術室の椅子でうたた寝をしている姿は少し茶色っぽいストレートな髪が陽の光を浴びて輝き、まるでその空間だけが一つの絵画のようで、可愛らしい山南先生の寝顔を見ようと人だかりが出来ることもある。  だが、そんな癒し効果抜群の山南先生の趣味は意外にもアクティブなものもあり、休みがあるたびに登山や釣りなどのアウトドアへと出かけているのだ。 (天候によっては今夜から出てもいいし、明日の朝早くから出て泊りの登山でもいいなぁ)  そう考えを巡らせて、山南先生は熱心にスマホで山の天気情報を集めているのだった。 「あ……メール?」      山南先生が真剣に画面を見ていると、ちょうどメールを受信したことを知らせる画面が映る。  とりあえず山南先生が届いたばかりのメールを開いてみると、そこには短い一文が送られていた。 『会議室に集合せよ!』 「近藤先生……さすがだなぁ」      その一文を見て山南先生は驚くわけでもなく、感心したように呟いた。  普段の山南先生ならこの時間は「居眠り」という名の船をこいでいるので、メールが届いたとしても気づくわけがない。  今日は週末だから、山南先生が天候情報を携帯で見ていると読んだうえで近藤先生はメールを送ってきたのだろう。 「でも、今日って金曜だしなぁ……メールしよっと」  そう呟いてスマホを弄った山南先生は誰かにメールを送る準備をし出した。  そして、メールを送り終えたのか、また天気の画面を開き直す。 「さて……明日の雲の流れは……」      今の山南先生には朝の会議よりも、明日の天気の方が気になるのであった。

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