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第9話 告白編4

 陽愛くんが職員室から出ていきホッとしていると、ふとオキと涼介が静かなことに気づく。 「どうした? 二人とも」      なんだかうつむき加減な様子に俺が声をかけると、二人がチラッと俺の方を見て呟いた。 「やっぱり雪ちゃんは山ちゃんがいいんだ」 「俺らはどうせ、雪乃くんにとって年下の後輩だもんな」 「え……」      いきなり弱気な態度の二人に俺は動揺してしまう。 「何言ってんだよ。二人も陽愛くんも同じ……」 「いいんですよ、気を使わなくて」 「最初から望みないってわかってたし」      俺の言葉を二人は諦めたような笑いとともに遮った。  何だよ、急にこんなしおらしくなるなんて卑怯だぞ。 「年下の後輩よりも、年上の頼れる先輩に惹かれるのは当然だよね」 「俺なんか昔と違って成長しちゃったし……雪乃くんは山くんみたいに小柄で可愛いタイプが好きなんでしょ?」      そりゃあ、自分より小さい相手を守ってあげたいって気持ちはあるけど、それは男としての本能であって二人の言う意味ではない。  どんどんネガティブな方向へと向かっていく二人に、俺は慌てて言葉をかける。 「そんなことないって! オキはさりげなく副担任として俺のフォローしてくれて頼りになるし、涼介だってかっこよく成長したけど、笑うと昔みたいに可愛いし」 「本当にそう思ってる?」      涼介に疑いの視線でそう問われ、俺は何度も大きく頷いた。  すると、畳み掛けるようにオキも聞いてくる。 「じゃあ、雪ちゃんは俺達のこと好き?」      そのまま勢いで頷きかけたが、その問いに含まれる何かを感じて俺は躊躇してしまう。 「……どうなの?」      だけど、すがるような後輩の顔で二人に聞かれると答えないわけにはいかなくなる。 「す……好き、だよ」      俺が小さく答えた途端、二人が嬉しそうに笑ったので、これも計算のうちか? と疑いながら不覚にも胸をときめかせてしまった。  新任のころは、この二人も可愛かったのになぁ。この一年で、なぜここまで色っぽくなってしまったんだろう。  俺が昔を懐かしんでいると職員室のドアが開いたので、陽愛くんが戻ってきたのかと顔を向けると、そこには陽愛くんではなく春樹が現れた。 「良かった、間に合った~!」      そう言って机の方に来た春樹は息を乱して、まるで遅刻寸前で教室に駆け込む生徒かのように、まさに急いで来た感じだ。  春樹は大学時代にバンド活動をやっていたらしく、それに熱心になり過ぎて大学を一年留年するという特異な経歴を持つ。  その縁でどうやらオキと親しくなったようで、二人でここの採用試験を受けたら理事長が気に入りセットで採用になった。  オキはいつも迷惑そうにしているが、なんだかんだで春樹を見捨てずにいるのは春樹の持つ人懐っこい性格のせいだろう。  年齢に関係なく誰とでも親しくなれる春樹だが、そのどこか危なっかしい無邪気さがついつい放っておけず俺もみんなも構ってしまうのだ。  黙っていればモデルみたいに格好良いのにな。 「おはよう。はい、水」 「あ、ありがと」      教師にしては余りに悲惨な姿を見兼ねた涼介が差し出した水を、春樹は一気に飲み干す。 「何でそんなに疲れきってんの?」 「朝練は指導だけのはずでしょう?」 「違うよ、朝練後に一度、着替えに家に戻ったの」      俺とオキからの問いに、やっと一息つけたのか春樹が説明してくれた。  言われてみれば、週末の朝練後に春樹がワイシャツにネクタイなんて珍しい。 「週末だから……なんて言い訳、近藤先生にはきかないと思ったから急いで着替えてきたんだよ~」 「確かにね。朝からお疲れ様」      机に突っ伏してしまった春樹の後頭部を撫でて慰めてあげる。  また甘やかしていると怒られるかと思い、チラッとオキと涼介へと視線を向けたが、特に二人からは何も言われなかった。

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