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第10話 告白編5

 それにしても、よほど急いだのだろう。いつもだったらしっかりとヘアワックスで整えられている春樹の髪が少し乱れていた。  それが何だか可愛くて俺はわざと髪型を崩すように春樹の頭を撫でる。  春樹もおとなしく動かずにいたので、そのまま動物を撫でる感覚でしばらく続けていると、今度こそ陽愛くんが戻ってきた。 「お帰り、山くん」 「着替え完了~」 「あっ、山ちゃん替え持ってきてたの?」      涼介と陽愛くんのやりとりを聞いていた春樹が顔をあげて聞くと、陽愛くんは首を横に振って答える。 「ううん、雪くんに持ってきてもらった」 「え~、また?」      陽愛くんの答えに春樹が不服そうに言うと、いきなり俺の方へと振り向く。 「雪ちゃん! 山ちゃんばっかりズルいよ。俺のお世話もして」 「だから、校内で名前呼ぶなって!」      突然、春樹に詰め寄られ、慌てた俺は話が噛み合っていないとわかりつつも、そう言い返していた。 「そんなことどーでもいいの!」 「そんなことって言うな!」      春樹がムキになって言ってくるので、俺も即答で反論した。  だって、年下の後輩にちゃん付けで呼ばれているなんて、生徒にでも聞かれたら恥ずかしいじゃないか。 「はいはい、二人とも」 「雪乃くんもハルも落ち着けって」 「そろそろ会議室に移動しないと遅れますよ」      三人が仲裁に入ったことで、俺と春樹は慌てて時計へと目をやった。  せっかく、着替えも間に合ったのに、こんな所で時間をとって遅刻したらもともこもない。 「とりあえず、その件に関しては後で話すからな、藤堂先生」 「何度話しても雪ちゃんは雪ちゃんだからね、土方先生」      俺の言葉に、机から取り出したワックスで髪型を整えながら春樹がわざと『土方先生』と返してきた。  もう、ちゃんと呼べるなら普段から校内ではそう呼べよ。  いまいち納得出来ないまま、俺は会議室へとみんなで移動した。  中にはすでに俺達と同学年の担任や副担任の先生方がワイシャツにネクタイ姿で座っていたので、俺達も慌てて後ろの方の空いている席へと腰かける。  すると、その直後に会議室のドアが開き俺達の学年主任・近藤先生が現れた。 「おはようございます!」      他の先生が立ち上がって挨拶をしたので、それにつられて俺達も立ち上がって挨拶をする。  やっぱり近藤先生の存在感は大きくて、同じ学年を受け持つ誇りと同時に妙な緊張感がある。  会議の時は必ずワイシャツにネクタイ。その会議だって今日のように、突然、特殊な召集のかけ方をするのでみんな気が抜けない。  気がつかなかったと言ってしまえば、もっともな理由だが、それを言わせない雰囲気が近藤先生にはあるのだ。  それでいて恐くて近寄りがたいわけでもなく、俺達後輩にも気さくに話しかけてくれる良い先輩だ。 「今日、皆さんに集まってもらったのはそろそろ近づいてくる学園祭のことです」      その近藤先生の言葉で、俺はもうそんな時期が来たのかと気づく。  この時期になると文化部の顧問をしている先生やクラス担任を受け持っている先生方は何かと慌しく動くことになる。  俺は文化部の顧問をしているわけでもなかったので、特にこの時期を気にしたことは今までなかった。 「今年は例年通り運動棟は文化部に開放します。そして、それに加えて体育館を一番いい企画を提案したクラスへと開放するとともに理事長から多少の予算援助が出ることが決定しました」      近藤先生から告げられた発表にその場の先生達からは感嘆の声が漏れた。  因みに運動棟は床がクッション性に優れていて普段は柔道部などが使っていて、体育館は割と広めでバスケやバレーボールなど複数の部活がいつも活動している。 「そこで、皆さんには担任・副担任ともに協力し合い、ぜひとも我ら二年の学年からいい企画が選ばれるように頑張ってもらいたい」      その宣言の後は、いかにいい企画を考えるかの話し合いへと移行していった。  どうやら今回の異例の会議は、出来る限り早めに学園祭へと取り組めるように開かれたものだったようだ。  そして、週末の休みを使い、来週までに各自、何かを提案することを課題としてその日の会議はお開きとなった。

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