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第12話 告白編7

「どうですか~? 藤堂先生。企画決まった?」      授業を終えて職員室へと戻ってきた春樹に聞くと、春樹は苦笑いで答えた。 「これといったものは……まだ」 「だよな~」      まあ、予想していた答えに俺もため息を吐いた。  近藤先生からの宣言があってから、何回かクラスや職員会議を重ねた俺達だったが、今一つ素晴らしい企画には出会えていない。  まあ、冷静に考えてみれば学園祭なんだから定番や似たような企画が出てくるのはわかりきっていたことだった。 「あげくには龍臣(タツオミ)が『俺達がユニット組んでライヴやる!』とか言い出すし……」 「龍臣って……藤堂先生のクラスの東雲(シノノメ)……だっけ?」      一人の生徒の顔を思い出しながらそう聞くと、春樹が大きく頷いた。 「うん。その東雲龍臣と朱雀院南朋(スザクインナオ)西條景虎(サイジョウカゲトラ)武井北斗(タケイホクト)の四人で『東西南北』ってユニットでライヴやりたいって言い出した……それはクラスの企画じゃないっての」      提案してきたメンバーを指折り数えながら、春樹が呆れたように言った。  メンバーの名前を聞く限りでは、関西メンバーの生徒達だ。  あいつららしい企画というか……なんか春樹がまともに担任してる。  それよりも……。 「ねぇ……」 「ん?」 「なんなの、そのネーミングセンス。確かに、あいつらの名前って東西南北が入ってるけど……それにしても、そのまんま過ぎ!」      俺は最初は堪えていたが、あまりにも捻りのない名前についには吹き出してしまった。  やばい、ツボに入った。  堪えきれずに笑いだしてしまった俺をしばらく驚いたように眺めていた春樹だったが、我に返ったように言った。 「龍臣に言っとくよ。ネーミングセンスなさ過ぎって」 「いや、別にあいつららしくていいと思うけど……ぷっ、東西南北って……あはは! やばい、腹痛い!」      抑えようと思えば思うほど笑いが込みあげてきて、俺は職員室だということも忘れて爆笑してしまい、そんな俺に春樹は心配したように言った。 「ちょっと雪ちゃん、大丈夫? 雪ちゃんの笑いのツボがいまいちよくわかんないんだけど……そんな可愛い笑顔、他で見せないでよね」 「えっ? 何か言った?」      最後の方にボソッと呟いた春樹の言葉が自分の笑い声でよく聞き取れずに問い返すと、春樹は慌てて首を振った。 「何でもない! それより、少しは落ち着いた?」      春樹に聞かれ、俺は笑い過ぎて出てきた涙を拭いながら答える。 「うん、もう大丈夫……それにしても、ユニットなんてアイドルみたいだよな~」      何気なく零した俺のその言葉に、春樹が何かを思い出したように言った。 「そう言えば、なんか俺達も噂になってるらしいよ」 「噂?」      なんのことだかわからずに聞き返すと、春樹が頷きながら説明してくれる。 「うん。龍臣と南朋から聞いたんだけど……俺達ってこの学校の先生の中ではまだ新人の方でしょ?」      春樹に同意を求められ、俺は素直に頷いた。  まあ、確かに春樹達はまだ二年目だし、俺と陽愛くんだって他の先生方に比べればまだまだ日が浅い。 「それに俺達の苗字をかけて、新しい先生達=『新先組(シンセングミ)』って校内で呼ばれてるみたいだよ」      確かに俺達の苗字は新撰組隊士達と同じだが……。 「なんだそれ?」  そういえば去年、履歴書だけで受かった涼介が自分の採用が決まったのは苗字が理由じゃないかって落ち込んでいた気がする。  その時は、何バカなこと言ってるんだって笑い飛ばしたけど……理事長、まさか本当にそんな理由じゃないよな?  まさか校内で自分達がそんな呼ばれ方をしているなんて思いもしなかった俺は、急に涼介の言葉を思い出して不安になってしまった。  俺の採用も理由が苗字のせいだったらどうしよう。  それに、自分で名乗ったわけじゃないけど、そんなグループ名みたいのついてるなんて東雲達のことを笑えない。 「新先組……ねぇ。なるほど」 「うわっ、びっくりした!」      いきなり背後から声が聞こえて振り返ると、いつの間に職員室に戻ってきていたのかオキがそこに立っていた。 「お疲れ様、沖田先生」 「お疲れ様です」 「ねぇ、何がなるほど……なの?」      春樹からの問いにオキは指で眼鏡の位置を上げながらニヤリと笑った。 「いえ、いい情報が入手出来たと思いまして。ありがとう、藤堂先生」 「え……う、うん」      さすがにこの状態のオキから礼を言われ、春樹の表情もどこか強ばっている。 「もしかしたら、みんなに頼みごとするかもしれませんが……その時はよろしく」      さらには満面の笑みでオキからそうつけ加えられて、俺と春樹は二人で顔を見合わせた。 「うわ~、オキちゃんいつもの可愛らしい顔じゃない」 「あの顔は絶対、何か企んでるよな」      その何かを俺達が知ることになったのは、それから数日たってからだった。

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