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第13話 告白編8
「山ちゃんと涼くんは少し遅くなるってさ」
ライングループでのやり取りを確認していたオキがそう言いながら、スマホをテーブルへと置いた。
オキがみんなに話があると言うので、今日は久しぶりに学校帰りに五人で飲み屋に行くことにしたのだが、まだ仕事が残っている陽愛くんと涼介は遅れて合流予定だ。
「文化部の顧問は大変だね」
「そう言うハルだって体育祭の時期は大変じゃん」
メニューを見ながら運動部顧問の春樹が他人事のように言うのに対してオキが答えた。
それにしても、校内から出た途端にこの二人は教師らしさがなくなるのがすごい。
私服に着替えた春樹はライブハウスからそのまま来たかのように格好良いし、オキも春樹に借りたヘアワックスで前髪を弄って眼鏡も外しているから、アイドル並の可愛い素顔が晒されている。
「まあね~……って、あれ? オキも文化部顧問じゃね? 忙しくないの?」
「これも顧問としての仕事です」
そんな二人の会話を聞きながら、俺は個室へと運ばれてきたビールやつまみなどをみんなの前へと振り分けていく。
「陽愛くんと涼介には申し訳無いけど、先に乾杯しちゃおうよ。せっかく、もう目の前にきてるんだし」
俺の言葉に春樹とオキもそれぞれグラスを手にする。
「じゃ、今日はお疲れ様でした~」
「お疲れでーす」
そのままグラスを軽く合わせ、仕事後の喉を潤す。
やっぱり、この一杯ってうまいんだよな~。
「ところで、オキの話ってなに?」
メインは陽愛くん達が来てから頼むとして、軽いつまみなどを口にしながら飲んでいると、ふと春樹がオキに質問した。
確かに今日はオキがきっかけで集まることになったのだ。
「みんな揃ってからの方がいい?」
「別に二人には改めて説明しますよ」
俺からの問いにオキは首を小さく横に振りそう言うと、グラスをテーブルへと置いた。
「実は……写真部顧問として、みんなに頼みたいことがありまして」
オキからの言葉に、なんの予想も出来ない俺と春樹はお互いに顔を見合わせてしまった。
その様子を眺めていたオキが言葉を続ける。
「今回の文化祭で、みんなにぜひとも我が写真部のモデルになって欲しいんです!」
「モッ……モデル?」
「なになに? どーゆうこと?」
あまりに想定外のオキの頼みに俺は驚いて声が裏返り、春樹は何だか楽しそうな様子で聞き返した。
「この前、ハルが言ってたでしょ、俺達が校内で『新先組』って呼ばれて噂になっているって」
そう言われて、そういえば春樹がそんなようなことを言っていたな……と思い出す。
でも、それがどうだっていうんだ?
その思いが顔に出ていたのだろう、オキがそのまま説明を始める。
「写真部では定期的に部員が撮った写真を販売してるんですが、今回は初の試みとして……こんなのを売ってみました」
そう言ってオキがテーブルに置いた写真を覗き込んだ俺は、そのまま固まってしまった。
「あっ、雪ちゃんの裸!」
「変な言い方すんな! 着替えてるだけだ」
俺と一緒に写真を覗き込んで大声で叫んだ春樹に、速攻でさらに大きな声で訂正をいれる。
確かに写真の俺はTシャツを首までまくりあげてて、ほぼ上半身が裸同然だけど……一つ説明させて欲しい。
これは先日、運動棟のシャワーが調子悪いと言われ、たまたま授業が空きだった俺が様子を見に行った時のものだろう。
出の悪いシャワーを色々弄っていたら、いきなり勢いよく水が噴き出したのだ。
当然、咄嗟に避けることも出来ずに、水浸しになってしまった俺は濡れた服を着替えた。
この写真はただそれだけなのに……上半身しか写ってないうえに、シャワーの水で俺の髪などが濡れていてTシャツも透けて貼りついているせいか、見ようによっては……なんかヤラシイ。
なんで、こんな写真がここにあるんだよ。
「あ、間違えました……これは、俺のプライベート用」
余りの衝撃に俺が何も言えずにいると、オキは何でもないことかのようにそう言って写真を自分の懐へとしまった。
ちょっと待て、隠し撮り自体も問題だけど、その『プライベート用』って何だよ!
「いいなぁ~、俺もそれ欲しい!」
「特別に格安で提供しますよ」
さらには目の前で春樹とオキがそんなやり取りをするものだから、俺は半分自棄になって怒鳴った。
「本人の前で堂々と取引するな! だったら、ちゃんとモデル料払えよ」
その発言にオキがおやっとした顔をした。
「何、モデル料払えば撮らせてくれるの? 雪ちゃんのあられもない姿撮るけどいい?」
あ、あられもない姿……?
俺の顔が青ざめると同時にオキが言う。
「まあ、そんな冗談はさておき……」
いや、冗談に聞こえないから……。オキってば教師じゃなくて役者の方が向いてるよ。
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