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第16話 告白編11

 一度そう思ってしまうと、俺は涼介と険悪ムードになったことも、その涼介が食べている俺のことを見ていることも忘れて、オムライスを頬張っていく。  すると、しばらく黙っていた涼介が小さく呟く。 「……俺はさ、みんなみたいに出来ないから」      涼介の言葉の意味がわからず、俺が食べる手を止めて次の言葉を待つとそれに気づいた涼介が静かに話始める。 「俺は山くんみたいに当たり前のように雪乃くんに頼ることも出来ないし……オキやハルみたいに無邪気に甘えることも出来ない」      今、涼介が言っているのは陽愛くんのワイシャツなどの着替えのことや、この前の飲み屋でのことだろう。 「だから、雪乃くんにとっては、俺は小さい頃に少し遊んだことがあるだけの、ただの可愛いげのない後輩でしかないかもしれないけど……」      そのまま俺が黙っていると、なんだか今にも泣きそうな声で涼介が呟いた。 「俺だって、みんなと同じで……雪ちゃんが好きなんだよ」      涼介が今は決して呼んでこない小さい頃の呼び方で俺の名前を呼んだ。  いつも自信ありそうな態度のくせに、そんなことで落ち込むなんて……涼介は馬鹿だ。  お前が素直に甘えてこないことなんてわかりきってるのに、そんな些細なことで悩むなんてお前だって昔のまま変わってない。 「そうやって悩むお前も……充分可愛いよ」      そう言って俺が手を伸ばして涼介の頭を撫でてやると、困惑したように涼介が俺の顔を見つめてきた。 「雪乃くん……?」 「だいたいさ『小さい頃に少し遊んだことがあるだけ』って何だよ。俺達、幼馴染みじゃねぇの? そう思ってたの俺だけ?」      少し拗ねたように俺がそう言うと、涼介が慌てて首を横に振って答えた。 「そんなことない! 俺にとって雪乃くんは大事な幼馴染みだよ。でも……途中で俺、雪乃くんのこと避けるようになっちゃったし」      ほら、そうやって不安そうな顔している涼介は昔みたいにどこか幼く見える。  確かに反抗期のあたりは何だか涼介に距離を置かれている気がして、お互いに気まずい時期があったことも確かだ。だけど……。 「それはお前なりの理由があったからだろ? 今はそんなことないんだから気にする必要ないじゃん」 「……理由聞かないの?」      恐る恐るといった感じで、涼介がそう聞いてきた。  涼介が俺を避けていた理由……気にならないと言えば嘘になる。でも、それを無理に聞き出したいわけでもない。 「お前が話してくれる気になったら、その時に聞くよ」      そう言って笑顔を向けると、涼介が少しホッとしているのがわかる。  そんな涼介に、俺はさっきから気になっていたことを聞いてみた。 「このオムライス……わざわざ俺のために作ってくれたんだろ? ありがとな」      図星だったのか、涼介が驚いたように目を見開いた。  だって、調理実習にしてはオムライスが出来立てみたいに温かいのはおかしいもんな。  きっと、俺が来る頃を見計らって作ってくれたんだろう。 「甘えるだけが可愛いじゃないよ」      俺がそう言って微笑むと、涼介もいつもとは違う幼い表情で小さく笑った。 「雪ちゃん……」 「甘え下手なのは俺も同じだし」      意外と涙もろい涼介が、また昔みたいに泣くかな……と少し期待した俺だったが、その考えが甘かったことにすぐ気づかされた。  残りのオムライスを食べようとした俺に涼介が笑顔で近づき……。 「卵ついてる」      そう言って、まるで犬が飼い主の頬を舐めるように涼介がペロッと俺の口元のすぐ横を舐めてきた。 「……っ……!」      あまりの出来事に俺が(たぶん)真っ赤になって言葉を失っていると、涼介がたいして気にした様子もなく『どうしたの?』と首を傾げてきた。  前言撤回! そんな無邪気な可愛い顔したって騙されないからな。どこが甘え下手だよ。一番、ナチュラルに迫ってきたじゃないか!   その後、ニコニコと俺を見つめる涼介を前にして食べたオムライスは、もう動揺し過ぎて何がなんだか味がわからなくなっていた。

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