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第17話 告白編12
涼介から試作品のTシャツと美味しいオムライスと心の動揺をもらった俺は、今度はその中のTシャツを陽愛くんに渡すために美術室へと向かった。
ドアの前で一呼吸し、気持ちを落ち着かせてから俺はドアを開ける。
「山南先生、いる?」
そう声をかけてみるが、今日は活動日ではないのか中には生徒達の姿もなかった。
でも、涼介が陽愛くんは美術室にいるって言ってたしな。準備室の方か?
「失礼しまーす」
一応、声をかけてから中へと入って奥の準備室へと向かう。
その途中の他の作品とは少し離れた所に置いてある作品に俺の足は止まってしまった。
「うわ~……」
蒼い海と青い空が抽象的に描かれているその作品に俺は感嘆のため息を吐いた。
きっと、この作品は陽愛くんのものだ。
普段の陽愛くん本人はあまり前に出ずマイペースなのに、絵を描かせると別人のように力強く自己主張している。
そんなギャップが陽愛くんの魅力の一つなのだろう。
この絵に船と魚が描いてあるあたり、この時期は釣りにでも行きたかったのかな?
なんとも陽愛くんらしいささやかなそのアピールに、俺は小さく笑ってしまった。
すると、突然後ろから声をかけられる。
「その絵……どこか変?」
振り返ると、いつの間にか陽愛くんが立っていた。
てっきり目の前にある準備室にいると思っていた人物の背後からの登場に俺は驚く。
「ビックリした……準備室にいると思ってたから」
「ん……電話があったみたいで、職員室に行ってたの」
そう言いながら陽愛くんは近くにあった椅子に腰を下ろして再度同じ質問をしてきた。
「ねぇ、どこか変? その絵」
俺が笑ってしまったのが聞こえたんだろう。陽愛くんが不安そうに聞いてくる。
「違うよ、全然変じゃない! むしろ、俺は好きだな、この絵……って言っても絵に関しては何もわからないけどね」
俺が慌てて誤解をとこうとすると、今度は陽愛くんが安心したように小さく笑った。
「良かった。絵に詳しくない雪くんが感性で好きになってくれた絵ってことでしょ」
「うん、なんか陽愛くんらしいなぁって」
その言葉に陽愛くんが不思議そうな表情を向けてきたので、俺も陽愛くんの横へと座りながら聞いてみる。
「陽愛くん、この絵を描いてた時期、釣りに行きたかったでしょう?」
「何でわかったの?」
驚いたように聞いてきた陽愛くんの姿に、俺は満足げに答えた。
「そりゃあ、付き合いの長い陽愛くんのことだもん。なんとなく、わかるよ」
「そっか。さすが夫婦だね」
「えっ……」
冗談なのか本気なのかわからない雰囲気でそう言われ、俺は答えに困ってしまう。
それを誤魔化すために、慌てて涼介から預かってきた試作品のTシャツを机の上に広げた。
「あ、そうだ、これ! 陽愛くんがデザインしたTシャツの試作品」
「おお……さすが涼、仕事早いな~」
ちょっとわざとらしかったかなと心配したけれど、そんなことは気にしていないのか陽愛くんが興味深そうにTシャツを覗きこんだ。
「どこか気になる箇所があったら言ってくれだって。涼介が手を加えるみたいだよ」
「う~ん……これはこれでいいけど、ちょっと自分好みにしちゃったら地味過ぎるかな?」
確かに、このTシャツはシンプルなデザインで色見も落ち着いた感じがする。
俺としては好きだけど、生徒達の目線からしたらもう少し派手でもいいのかもしれない。
「そうだね……文化祭ってお祭りなわけだし」
「うん、ちょっと待って……確か準備室に色のサンプルが……」
そう言うと、陽愛くんは椅子から立ち上がり準備室の方へと消えていく。
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