29 / 405

第29話

「あっ、そろそろ出ないとマジでヤバい! 下に煌騎が車置いてってくれてるだろうから行こうぜ!!」 流星くんがもう一度壁に掛けられた時計を見て言うと、虎汰が「だな♪ 」と相槌を打つ。ボクもコクンと頷くと、三人は漸く入口のドアを潜った。 「でもさぁ、よく考えたらチィに必要なモノって何買えばいいの?」 「―――はっ!? そりゃあ服とか下着とか、後は……ん~、テキトーでいいんじゃねーの?」 歩きながらの虎汰の質問に、流星くんが率直に答える。でも答えが大雑把すぎて、何を買い揃えればいいのかボクには全然分からない。 隣に平行して歩く虎汰も同じことを思ったのか、更に頭を捻っていた。 「う~ん。つかさ、そもそも俺たちのセンスで選んじゃってもいーのか?」 「………えっ……」 進んでいた流星くんの脚がピタリと止まり静止状態になる。どうして止まったのだろうと顔を見上げてみると、彼は顔面蒼白になっていた。 え、なんで……? 「……絶対ムリッ!! 俺、あいつの好みなんか知らねーっつの!?」 「だよね、俺も知らない。変なの買ったらそれこそ後で何言われるか分かったもんじゃないよ」 溜息混じりに虎汰がぼそりと呟いた。二人は何を思い出したのか急にぶるりと身を震わせる。ボクはその光景をただ呆然と見ていた。 確かにお金は煌騎に出して貰うのだし、少しは彼の好みを取り入れた方がいいのかもしれない。だけどそこまで躊躇するものでもないようにも思う。 二人は何をそんなに怖がってるのだろう? 「―――ちょっと、いつまで私を待たせる気なのよバカコンビ! 早く降りて来なさい!!」 考えに耽っていたら廊下の先の吹き抜けから、透き通るような可愛らしい女の子の声が聞こえた。けれど声の主は機嫌が悪いのか、その声は少し低く怒気を含んでいるように感じる。 虎汰と流星くんは瞬時にその声に反応すると、顔を見合わせて深い深い溜息を吐いた。 「何で帰ったハズのあいつがまだ居んだよっ」 「……知んないよ、こっちが聞きたい。とりあえず下行こうぜ」 げんなりする虎汰に急かされ階段を降りる流星くん。揺れる振動を感じながらキョロキョロ周りを窺うと、どうやらここは家ではなく何か大きな倉庫らしい事に漸く気づいた。

ともだちにシェアしよう!