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第36話
「………で、さっきあのバカ女はチィに何を吹き込んでいったのカナ?」
「―――えっ!?」
可愛い笑顔から一転、真剣な表情になった虎子ちゃんはぐっと顔を近づけてきた。そのあまりの近さに別の意味で胸がドキドキする。
でもまさか気付かれていたとは思わなかったので、ボクはわたわたと挙動不審に狼狽えた。
「えと……何の…こと、かな……?」
「アラ、私を誤魔化せると思ってる? たぶん虎汰も気づいてるよ。だから今回は私に譲ってくれたのよ」
そっと虎子ちゃんが後ろに目線をやり、釣られてボクも振り返ると後方の虎汰と流星くんと目が合い手を振ってくれる。
けれど大きく手を振ったため虎汰の肘が流星くんの頭部に当たり、二人はケンカを始めてしまった。
一見ふざけあってるようにも見えるが、意識は常に周りを向いていて神経を尖らせているみたいだった。
「アハハ、本当バカな奴らだよねぇ。……ま、流星は天然なトコあるからわかんないんだけどねっ」
苦笑気味に笑うと虎子ちゃんはまたボクを見た。
けどそれ以上はもう何も言わない。恐らくボクが自発的に言うのを待っているのだろう。
彼女には敵わないなぁ……と思った。
意を決して深い深呼吸を2~3度繰り返すと、ボクは前を向き重たい口を開いた。
「煌騎には既に決められた人がいるから、せいぜい遊ばれて捨てられればいいって言われたの。でもあの子たち、ボクのこと女の子だと思ったのかなぁ? へへ、ボク男の子なのに…変だよねっ」
思っていた以上に堪えてたのか、そう言った途端、なんだか泣きそうになってしまって唇を強く噛む。
でも何故その言葉が胸に突き刺さるのかはわかっていなかった。ボクはまだ恋を知らない、したことがなかったから……。
ただ漠然とした不安が臆病者のボクを逃げ腰にする。さっきまでは現実を見ようとせず、虎子ちゃんとの楽しい時間に逃げようとしていた。
そんな自分が急に恥ずかしくなり、更に顔を俯かせると虎子ちゃんが苦笑を零し、ボクの頭を優しく撫でてくれる。
「……そっか。あのバカ女、ホント余計なこと言ってくれたもんだ」
深い溜め息を吐き、ほとほと呆れ返った顔をした。でも彼女の瞳が少し困ったように揺れたのを見て、あの女の子が言った言葉は本当なんだという事を悟る。
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