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第2話
海外に住んでいた尋夢の姉は、14年前に亡くなった。ーーまだ小さかった、1人の息子をこの世に残して。
久々に見た彼女とその旦那は、自分が知っている姿とは何1つ変わりがないのに、もう目を覚ますことはない。
棺桶の中で静かに眠る2人を黙って見つめることしか出来なかった尋夢の足に、1人の男の子が勢いよくしがみついてきた。
「ひろ……くっ。パ……パ、ママ……ちゅばさのなまえ、よんで……く、れな……」
今にもこぼれ落ちそうな位、瞳に涙を浮かべながらも必死に堪える幼き少年。
長年会っていなかったというのに、周りの大人の腕を振り払って、翼は尋夢の傍に駆け寄ったのだ。
「翼、俺のこと覚えてるのか?」
「ママ、が……いつもひろくんの、はな……し、してくれた」
首を縦に振りながら、懸命に問いに答える小さな体をその場で抱き上げれば、彼は尋夢の首に細い腕を震わせながら回した。
少しでも力を入れれば、折れてしまうのでは……と思える程、繊細な身体。一体この地で、誰がこの子を護ってやれるのだろうか?
「俺が……翼を引き取って育てます」
頭で考えるよりも先に、無意識に言葉を発していた。
「今日から俺が、お前の家族だよ」
「ひろくん……いっしょ?」
「ああ。ずっと一緒にいる。……お前をもう、1人にはさせない」
子育てなんて未知の世界である尋夢は、日本に戻ってからは何度も苦しい思いをした。
家事と仕事の両立が上手く出来ず、しばらくしてから彼は外で働くのを辞めて、在宅デザイナーとしての生活を選択する。
正直、金銭面や体調面で今の生活を投げ出したくなることもあった。
「ひろくん、おちゅかれさま。ありがとうと、すきの……ちゅ〜」
それでも彼が頑張ってこれたのは、幼き翼がこうして笑顔で傍にいてくれたからだ。
はじめは可愛いと感じるだけだったが、この感情が変化してきたのは、いつからだろうか……。
成長するにあたり、少しずつスキンシップが激しくなり、色気を漂わす言葉を伝えるようになってきた翼。
彼が思春期と呼ばれる位の年齢にまで育った頃には、尋夢は翼の知らない所で昂った感情を自身で処理したり……時には男を家に呼んで、その欲を吐き出す日々を送っていたのだった。
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