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前編

荒廃した神殿最下層の最大のトレジャーである大き目の箱から出てきたのは…… 「……ガリガリの幼い男の子……!?」 ……に、しても、このデカイ箱……素材がダンボールじゃねーか? しかも新品じゃなくて、いくらか風雨に晒された感のある……。 「コイツ……"人間"か? ……獣の耳が無い……ありえねぇ……」 そう……この世界は"獣人"の世界なのだ……。 ちなみに俺はクロヒョウの獣人。 「……もしかして、俺が前に生きた世界から来たのか?」 そして……俺は前世の記憶ありの転生者だ。 俺がブツブツ独り言をしていると、"ガサリ"と音がして子供の柔らかい声が下から聞こえてきた。 「……ネコさんだー」 「……猫じゃねぇ。クロヒョウだ」 「クロヒョウさん?」 「おー……」 青白い肌にやたら大きな黒目が可愛い、丸い顔立ち……こいつの方が猫っぽいかな。 「名前は? 俺はデニアス」 「……マドカ」 「そうか。幾つだ?」 「ん……と、よんさい」 「…………マドカ、家はどこだ?」 俺の質問にマドカと名乗った幼子は、箱の中で膝を抱えてポツリと答えてきた。 「…………おうち、ないない……なの」 「無い? 何でだ? お父さんやお母さんは……?」 「……んとね、ぱぱは今、海をこえた国で頑張っておしごとしているからおうちにいないの! マドカのままはマドカとぱぱを置いて、お空に住んでてもう会えないんだって……。 でもね、最近ぱぱはおっきなお腹をしたキレイな女の人をつれてきて、マドカに"お前に弟ができた。新しいままだよ"、って。 ぱぱはおうちにマドカと新しいままを置いて、すぐにおしごとにいっちゃった……。 そしたら新しいままに"弟が生まれるから、お兄ちゃんになるマドカはこれからここで暮らしなさい"って、おうちの庭のすみに置いた大きな箱に入れられて……。 もとのおうちに帰ろうとすると、ままがおこってマドカを濡れたタオルでいっぱいたたくの。 だからマドカはおうちないないになったの……」 「……それ……!?」 胸糞悪い……。 「…………お前、飯……ご飯はちゃんと食ってたのか……?」 「ん? ままはすっぱい味付けの固めなおにぎりを二日おきくらいに一つくれるから、大丈夫! 食べてた!」 「……ハァ!?」 それって、痛んでるんじゃ……!? 「水……。水分……飲み物は……?」 「こうえんに行って飲んでたの。おトイレもそこで、一人でするの! えらいでしょ?」 俺はそう言って笑うマドカを抱き締め、街へと走りながら「これからは俺が育ててやるからな! 安心しろ!!」とマドカに約束した。 しかし、俺は全力で走りながらマドカを育てるにあたり、一人では限界があると感じた。 そこで俺が一番信用していて、子供の頃から想い続けている…… 「なぁ! フィーノ、助けてくれよー!」 「ん? デニアス、向かった神殿遺跡内で怪我でも……って、その子供は!?」 ……幼馴染の狐獣人のフィーノにマドカの事を相談する事にしたのだ。 そしてフィーノは突然なのに俺の話を静かに聴いてくれ、マドカと自己紹介を交わすとそっと魔法を使いながらマドカの放置されて長めになったと思われる黒い髪を弄りだして…… 「―……こうすれば……"猫耳"っぽく……お前と同じく見えないか?」 「おお~~……確かに……髪の毛で"猫耳"かぁ……」 「?」 「そんで、仕上げに……補助魔法で……」 「おお? 硬化魔法か!」 「??」 「そう。これで猫耳キープ可能だろ? ホラ、見てごらん?」 「わぁ……ネコさんのみみー!!」 大きな鏡に映る姿に、マドカが嬉しそうに笑った。 どうやら気に入った様だ。 俺はここでマドカに、この世界にはマドカと同じ姿の者が居ない事を説明した。 俺達と過ごす為に、その猫耳姿で居ないといけないと教えたのだ。 マドカは興奮していたが理解した様で、「一緒にいたいから、がんばる!」と拳を作って気合を入れていた。 ……ちなみに……この世界の獣人は普段"尾"は隠している。 特別な相手にしか、見せないし触らせない。 だから普通の生活を送るだけなら、"耳"だけ確認出来れば大丈夫なのだ。 そして何とマドカは魔力を保有していた。 フィーノが教えると、簡単に猫耳を作って見せた。 しかし威力は弱いらしく、魔法の掛かる範囲が狭い……。 ま、これから、って事だな。 ―そして………… 「ほら、マドカ、デニアスに"いってらっしゃい"、したいんだろ?」 「ん……。デニ、いってぁッちゃぃ…………くぅ……」 「早朝だから寝ぼけてんな……ははっ」 フィーノの脚に抱きついてフラフラしながらも、仕事に出る俺に挨拶をするマドカ。 寝てても良い、って言ってるのにマドカは頑なに俺に言葉をくれる。 「―……今回も早朝からマドカの子守、頼んで悪いな……」 「んー? 別に良いよ。俺はここが仕事場だしさ。注意して頑張れよ」 マドカと出会って、俺達のこの関係はもうすぐ一年だ。 俺が外で様々な荒仕事をこなす間、フィーノがマドカの面倒を見ていてくれる。 そしてフィーノは俺に「食え」と言って弁当を寄越し硬化魔法を掛けてくれる。 フィーノの家に泊まらせてもらった時の恒例行事と化しているこれは、正直有難い。 俺は二人に「行って来るぜ」と言って、仕事に向かう。 ……あー、くそ。本当の家族になりたい。 見送る二人に背を向けて、俺は現場に着くまで悶々と考える。 フィーノは魔法学に夢中で今までフリーだし、俺との関係は……親友止まりかもしれないが、言っても……壊れずに恋愛的に意識してくれるだろうか? ちなみにこの世界は同性同士は結構居る。だから周囲の反応は気にしなくて大丈夫だ。 そしてマドカもフィーノにとても懐いている。 フィーノもマドカを素で可愛がっている。 だから、この二人は今以上に一緒の時間を共有する事になっても多分大丈夫。 「……こういうのは、タイミング……か?」 「デニアスさん、何呟いているンすかー?」 今回の仲間の犬獣人の男に不思議がられたが、「……攻めるタイミングの話だ」と軽く流して俺は戦果を挙げるのに集中する事にした。 この日大きく戦果を挙げた俺は雇い主から特別報酬を貰い、フィーノを誘い三人で外食をした。 そして俺の家に向かいフィーノに泊まる事をすすめ、マドカは寝かしつけた。 マドカの部屋から出て、居間でラグの上で寛いでいるフィーノの横に座ると俺に話し始めた。 「マドカ寝た? 最近は外に行くデニアスに全身硬化魔法掛けるんだ、って俺の手伝いをしながら硬化魔法の勉強を頑張ってるよ」 「へえ?」 「素直で可愛い子だよね。和み系だな」 「おう……」 「それにこうしてお前とマドカが育ってくの見るの、楽しいよ」 「!」 これは、チャンス!? 「フィーノ……! お、おれ、俺、おれ、俺と……」 「?」 「俺……と、家族になっ……て一緒に、マドカを育てないか……!?」 「!!!?」 俺の言葉に驚いて動けないフィーノに追い討ちをかける。 そ、そりゃ……突然、家族になろう……だもんな。 でも俺は引かない! 「なぁ……? 返事……くれよ……」 「ぅ、ぁ……ぇ? ぁ?」 ラグから立ち上がり後退するフィーノを意図的に追いかけ壁ドンしたら、慌てて俺の腕の囲いの中でオロオロとし出すフィーノ……めちゃカワ……。 それにしても……狩猟の本能刺激されまくりなんだが……? 「…………逃がさねぇ……」 「……?」 「フィーノ、色良い返事くれるまで、俺……逃がさないからな……」 「デニアス……っ!?」 フィーノを見下ろす俺の瞳は絶対ギラギラしてる。 息だって荒いし、腕をどかしてフィーノを逃がす気は無い。 答えは『一択』。ここまできたら、それ以外は却下だ。 そして……俺はこの状況に……完全に勃起状態……。 フィーノは俺の只ならぬ様子と股間に「ヒ!」と顔を青ざめ…… 「―……デニアスのばか!! せめて股間のを鎮めて、冷静な時に言え!!!」 「ぐは!?」 やはり勢いに任せて事を急ぎすぎた!? 硬化と重力の魔法を乗せた重い拳で腹パンされた……! く……クリティカルだぜぇ……、フィーノ……。 ……冷静になって、もう一度……いや、何度でも申し込もう。 でも、今は…… 俺は床に突っ伏して、翌朝まで意識を飛ばした。

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