俺は夢を見ているのか？ 答えは『否』 夢なら、こんなに激しい頭痛に苛まれはしないだろ。 すると幻覚を見ているのか？ (嫌だー) だって俺、まだ16だよ。 若い身空でアル中なんて。 しかもサバランでアル中なんてっ。 「そんなの嫌ァァー！」 ………う。 叫んだら頭痛が悪化した。 俺、死亡 クニんッ 「起きろ」 ……って～。 なんなんだ！このチビッ子は！ 「人の頭に足乗せんじゃねー」 ……ん？ ……て事は幻じゃないのか。 感覚あるもんな。 ……って。幻じゃなかったら、事は更に重大だ。 (ここは寮だぞ) 私立 聖(セント)ミカエル学園 男子寮 部外者 立ち入り禁止 なのに、どうして。 部外者が寮内の、しかも俺の部屋にいるんだーっ！ ………もしや。 こないだ兄貴が言ってた。 酔っ払って、女連れ込んだって。 まさか俺も！ 酔っ払って連れ込んだのか？ いたいけな児童をォォォーッ！ チラリ 顔を踏む足の主を見上げる。 見たところ、男子小学生は低学年 つか、問題だろ。 犯罪だろ。 否、待て。 何かあったと決めつけるのは早い。 俺、部屋の中でサバラン食べてた。 という事は、男を連れ込むのは不可能だよ？ 第一、年下に興味ないし。 年下過ぎるし！ そもそも男に興味ないし。 じゃあ、このチビッ子は何者なんだ？ プニー 「おい、下僕。さっさと朝げの仕度をしろ」 クニクニ 小さな足が俺の頬を踏みつける。 「聞いてるのか、下僕」 誰だ、こんな躾したのは。 親の顔が見たいわ。 人の顔は踏んじゃいけないんだぞ！ 「下僕、返事は？」 「俺は下僕じゃねェ！大和(やまと) 一(はじめ)っつー名前があるんだ！」 「そんな事は聞いてない」 俺を見下ろす…… 心臓に突き刺さる、氷の針 (なんで) 小学生に、こんな眼ができるんだ？ ……クニクニ～ 「我が聞きたいのは『はい』の返事だ」 クニクニ～ 俺の顔を踏む小さい足 (誰だーッ) 子供は天使だなんて言ったのはーッ。 こいつは、まるで……… 「悪魔じゃないかァァー！！」 フン、と。 冷えた玲瓏が一瞥を落とした。 「よく分かってるじゃないか」 口角に底冷えする笑みが浮かぶ。 柔らかな頬、冷冽に。 「我は怠惰を司る悪魔」 其の名を 「ベルフェゴール」 クニクニ 「分かったら、さっさと起きろ」 「やだ。子供のママゴトに付き合いたくない」 今日は日曜日♪ どうしてお子様の悪魔ごっこに、いたいけな高校生が付き合わねばならないのだ。 「ならば、お前は永遠の眠りにつく事になる」 眠りたいよ。 頭痛が治るまで永遠に眠らせてくれ。 「5秒だ。5秒で起きなければ、永遠に寝てろ」 「はーい、そうします♪」 「5、4、3、2……」 ズキンッ 「ハゥッ！」 心臓を爪で鷲掴まれる 苦しい 息ができないッ 「特別に1秒延長してやる。起きる気になったか」 「起…きるぅっ」 「よし」 あれ？ 痛かった左胸はなんともない。 いつもの二日酔いの残る体だ。 (もしかして) ほんとうに…… このチビッ子は★ 「さぁ、下僕。我に何を食わせてくれるのだ？」 悪魔 (うそだろーッ！) 長い睫毛を伏せて桜色の唇を微かに吊り上げ、柔らかにほくそ笑む姿は、まさに。 天使の皮を被った悪魔だった。