4 / 17

Ⅰ そこは笑うトコロ②

悪魔の食事なんて、俺は知らない。 「この茶色いドロドロはなんだ?よもや泥を溶かしたのではあるまいな」 寮母さんを馬鹿にするなよ。 「味噌汁だよ」 俺たちの健康を考えて作ってくれる愛情たっぷりの料理は、とっても美味しいんだからな。 「うまいぞ!」 ほら♪ 寮母さんのワカメと豆府(とうふ)の味噌汁は絶品なんだ。 「下僕、(なんじ)は料理の天才だ」 「当然!」 味噌汁、寮母さんが作ったんだけどね。 朝食の時間を過ぎたから、特別に厨房に入れてもらって俺は味噌汁を温めただけ。 チビッ子に目上の人への敬意を教えるため、この事実は伏せておこう。 「おぉう!」 なんだ、なんだ? チビッ子が叫んだぞ。 今度は鮭か。卵焼きか。それとも味付け海苔? 「人間風情が原子レベルの分解と再構築の理論を理解するとは!」 チビッ子が小難しい事言って…… 「あぁー、魔法少女か」 テレビアニメの魔法少女の変身シーンに歓喜したらしい。 なんだかんだ言っても、やっぱり子供だ。多少変わった感想ではあるが。 「1モルのアボガドロ定数を求めると、変身の原理は……」 「やかましい!」 訂正。だいぶ変わってる! 普通にアニメ見ろよ。子供らしく! (やっぱり本当に悪魔なのかなぁ) 見た目は普通のチビッ子なんだけど。 やけに大人びているし。 俺の心臓、止まりかけたし。 ……つか。 (なんで俺、チビッ子の面倒みてるんだ) 「我を育てなければ、汝は即死亡だからだ」 まるで心の中を呼んだかのようなタイミングだった。 「汝は我と契約した。見事我を育てた暁には、汝の願いを叶えよう」 契約? 願い? なんの事? 「あのー、質問」 「はい、下僕」 挙手した俺をチビッ子が指す。 「契約とか、願いってなんの話?」 ムッ 眉間に皺を寄せて。チビッ子が不機嫌になった。 「願いを叶える条件に、我を育てると契約したではないか」 「えー。覚えてない」 「汝の都合など知らん。悪魔の契約に破棄はない」 「そんなぁ」 俺、すっごいややこしい事に巻き込まれてるよ~。 (俺の望んだ願いって、なに?) 酒の勢い……もといサバランの勢いで全く覚えてない。 「思い出せ。そこまで世話は焼かん」 悪魔だけにチビッ子冷たいな。 「まぁ、頑張れ。育て上げた暁には願いが叶う以外に追加報酬もある」 え、なになに? 食いついちゃうよ♪俺♪ フフンと、チビッ子が鼻を鳴らした。 「汝の魂を貰い受ける。人間風情が首座悪魔の栄誉に預かれる事を、誇りに思え」 ………………それ、死亡フラグじゃない? 魂取られるって、死ぬって事だ! なんなんだーッ、リスクしかないこの契約はーッ!! 「契約破棄する!」 「できんと言っただろう」 「それでも破棄!」 「破棄すれば、即死亡だ」 退路は絶たれた。 「汝のパートナーは既に決めてある」 パートナー? なに、それ? 「二人の人間が協力して我を育てるのが、悪魔の契約の必須条項だ。優秀なパートナーと全力で我を育てろ」 なんなんだよー、勝手に決めて。 俺、育てない。 でも育てないと俺、死んでしまう~。

ともだちにシェアしよう!