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喫茶店のオーナーと甘党の彼_20

 次の日、真野は何事もなかったかのように仕事をしていた。  信崎との関係も今まで通りで、仕事の話はするがぎこちないままだ。   大池はただ見守るだけしかできず、日々が過ぎていく。  だが、あれから一週間後の事だった。真野が真っ赤に目を腫らして会社にやってきたのは。  真野は、泣ける映画を見てたらこんなになってしまったと明るく言っていたが、大池の目には無理をしているように見えた。  隣の席へ座った真野を心配そうに見れば、 「大丈夫ですよ、大池さん」  と微笑んで見せるが、その表情が余計に大池を心配に刺せる。 「真野……」 「さてと、お仕事はじめよかな」  パソコンを立ち上げてファイルを開きはじめる真野に、 「真野、後で話そう」  良いなと肩を叩けば、真野が顔を強張らせる。 「……大池さんは騙せないか」  解りましたと、後で話をするという約束をしてくれた。  昼休み、大池は真野を連れて外にあるベンチへと向かう。  暖かい日はそこでランチをする人もいるのだが、今日は天気も良くないせいか人気が無く都合が良い。  真野を座らせて暖かい缶コーヒーを手渡す。  それを両手で包み込むように持ちながら真野がポツリと話しだす。 「俺、ふられちゃいました」  昨日、信崎に会議室へと連れ込まれて告白してしまったのだという。 「信崎さん、俺の話を真剣に聞いてくれて。嫌われていると思っていたから驚いたって。俺の事を好きになってくれてありがとうって言ってくれたんです」  江藤さんが言っていた通りでしたと、素敵な人に恋をすることが出来て良かったですと微笑むが、 「結果、振られてしまったけれど、これですっきりできるって思ったのに。どうしても愛おしいって気持ちがなくならなくて。苦しくて、つらくて、ずっと涙が止まらなくて」  胸を押さえながら辛そうに顔を歪ませた。 「やっぱ、こういう時はやけ食いですかね」  そうしたら気持ちが晴れるでしょうかと、ぽとぽとと真野の目から涙が流れ落ちる。 「真野」  誰かを慰める事なんてしたことがなかった。  きっと江藤なら真野を上手く慰めることが出来ただろう。だが、自分にはこれが精一杯だ。 「すまんな、こういうのに慣れてなくて」  ぎこちなく真野を抱きしめて背中を擦ってやれば。 「大池さん、優しいなぁ……」  ぎゅっとスーツを握りしめてむせび泣く。  大池は真野が泣き止むまで抱きしめて背中を摩り続けた。

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