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喫茶店のオーナーと甘党の彼_22
真野がここに来ることは連絡を受けていた。
眼鏡をかけた姿で店へとやってきた真野の目は真っ赤に腫れていて、江藤はカウンターの奥の部屋へと連れて行く。
荷物置き兼休憩スペースとして利用している部屋で、棚と小さなテーブルとソファー、そして冷蔵庫が置いてある。
二階に一人きりにするよりも、誰かがいる店の方が今の真野には良いのではとそう判断しての事だ。
「はい、ご迷惑おかけします」
そう頭を下げて大人しくソファーへと座る真野に、
「今、珈琲と甘いものを用意するから」
とカウンターへと戻る。
蜂蜜入りの珈琲を入れてあげよう。
気持ちがホッと出来たら良いなと、そう思いながら棚から蜂蜜を取り出してカップの中へと入れた。
吊り看板をCLOSEにして喫茶店の戸締りをした後、真野を連れて住居スペースである二階へと向かう。
「ごめん、退屈だったろ」
あの部屋にはテレビや本などの類はなく、ただぼんやりと真野は座っていた。
「いえ。江藤さんとお客さんの話がたまに聞こえてきて、結構楽しかったです」
カウンターの席に座るのは殆どが常連の客で、珈琲を飲みつつ話を聞いてほしくて江藤の元を訪れる。
「美味しい珈琲と江藤さんの人柄に惚れて、皆さんが集まるのですね」
「可愛い事をいってくれるねぇ」
真野をぎゅっと抱きしめて、良い子、良い子、と頭を撫でる。
「うわぁ、江藤さんっ」
「よし、真野君にお菓子を焼いてあげよう」
何が食べたいと聞けば。そうですねと腕を組み、マフィンが良いとこたえる。
「良いねぇ。そうだ、一緒に作るか?」
「はい」
マフィンを作る為の材料を揃える。
作るのはオレンジピールとさつまいものマフィンだ。
真野は意外と手際が良く、普段から料理をしているのだろうと思わせるほどだ。
作業をしながらぽつりぽつりと信崎との事を話しだした。
「俺、凄く辛くて。いっぱい泣いたら目が腫れちゃって。でも休んだら信崎さんが気にしてしまうかもと思って会社に来たら、大池さんが心配してくれて。また泣かされました」
でもそのお蔭で心が軽くなりましたと微笑む。
「昔の大池じゃ考えられないよなぁ」
「え?」
「人と関わりあいになるのを嫌がってさ、俺なんて何度誘っても断れてた」
昔の大池を知らない真野は驚いた顔で江藤を見る。
「色々な人と付き合うようになって、それも真野君という後輩が出来て誰かの為に何が出来るかを考えるようになった」
「そう、なんですか」
「信崎はまだ真野君の事をあまり知らないから……」
仕事の話以外の事を話したことはないと、前に信崎が言っていた。
まるで以前の江藤と大池のよう。
ただの会社の同僚でしかなかった関係は互いを知るうちに変わっていった。
もしかしたら信崎も真野の事を知るうちに変わるかもしれない。だが、それは真野次第だ。
「もっと信崎に自分の事を知ってもらおう」
ぎゅっと両手を掴めば、真野の目が潤みだした。
「はい」
「じゃぁ、真野君が作ったマフィンは信崎に」
それが話すきっかけになればいい。
江藤の思いは真野に伝わったようで、ハイと返事をし笑顔を向けた。
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