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恋をする甘党の彼_2

 仕事上、笑顔を作るのは得意だ。  心にモヤモヤしたものを抱えていても、それを見せる事無く笑顔を浮かべる。  尊敬する先輩に慕っている後輩。今、真野が見せているのはそんな笑顔だ。  気持ちを誤魔化しながらなんとかいつも通り過ごしてきたが、流石に例の日が明日にもなると我慢が限界を迎えた。 「大池さん、今日、飲みに付き合ってください!」  信崎の事を話せるのは、自分の教育係であり先輩の大池と、その恋人である江藤だけで。何かあると話を聞いてくれるのだ。  大池は理由を聞くことなく、解ったと言ってくれて、スマートフォンを取り出してメールを打ち始める。  メールの相手は江藤だろう。いつも仲が良い二人を見ていると幸せな気持ちと共に羨ましさを覚える。  いつか自分もそうなりたいと仕事中の信崎を見れば、ばちっと目が合って思わず顔を背けてしまった。 「……じゃぁ、外回りに行ってきますね」  誤魔化すように鞄を手にすれば、行ってらっしゃいと職場の人から声を掛けられる。  信崎からもそう声を掛けられて、行ってきますと頭を下げた。  研修を終えて本採用になり、一人で得意先を回るようになった。  仕事を終えて会社に戻る途中、休憩と癒しを兼ねて江藤の喫茶店へいく。 「いらっしゃい」  いつも優しい笑顔で迎えてくれる江藤を見るとホッとする。  真野はいつもカウンター席に座るのだが、今日に限って席は全て埋まっていた。  しかも真中の席には小さな子供が美味しそうにカップケーキを食べており、その周りには年配の常連客がニコニコとしながらその子を眺めている、といったかんじ。  なんとも和やかな風景だが、誰かが孫でも連れてきたのだろうか? 「お兄ちゃん、ここ座りなよ」  仕事に戻るからと言い、それをきっかけに他の人も御馳走様でしたと帰っていき、埋まっていたカウンターの席は真野とその子供だけになる。  誰かの孫だと思っていただけに、何故まだここにいるのだろうと疑問に思った真野は、江藤にこの子の親はと聞いてみる。 「えっと……」  何か言いにくそうにする江藤に、真野は疑問に思いながら口が開くのを待つ。  驚かないでねと前置きをし、 「この子は信崎の息子で浩介って言うんだ」  と浩介の頭を撫でた。  つい、驚いて声をあげてしまう。  しかも、真野の気持ちを知っているだけに、江藤は言いにくそうにしていたのだろう。  血の気が引く。引きつり笑いをしながらテーブルに腕を置いて体を支える。そうしないとこのまま後ろに倒れてしまいそうだから。 「……結婚していたんですね」 「まぁ、ね」  離婚したのなら誰も話題にしないだろうし、信崎だって言いたくないだろう。  だから今の今まで知らなかったのだ。 「ごめんなさい、俺、帰ります」  気持ちを落ちつけたい。  今は一人になりたいと思い席を立とうとした、その時。近くで浩介が真野を綺麗な目をして見上げていた。 「え、なに?」  帰りたいのそこに居られたら邪魔だ。  真野は引きつりそうになりながらも笑顔を作り。 「帰るからどいてくれるかな?」  と言えば、 「ボク、こうすけ。よんさいです!」  そう大きな声で自己紹介をし、指を四本たてる。 「あ、あの」  困惑気味に江藤を見れば、自己紹介してと促され。真野はしゃがみこんで視線をあわせる。 「真野です。えっと、浩介君のパパの同僚です」 「マフィンをくれたおにいちゃん」  そう指を差され、さらに困惑してしまう。 「実はね、この前のマフィン、浩介と半分こして食べたんだって。その時、この画像を見せたみたい」  江藤はスマートフォンを取り出して画像を見せてくれる。それはマフィンを渡した時に信崎が撮ったものだった。 「パパのところにあそびにいったとき、はんぶんこしたの」  ごちそうさまでしたとぺこっと頭を下げる仕草が可愛くて、落ち込んでいた気持ちが上昇した。

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